汀月透子

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〈今年の抱負〉

 元旦、俺はコンビニで買った三紙の新聞を居間のテーブルに広げていた。朝刊を三紙も買うなんて、入社前の俺なら考えもしなかっただろう。

 うちの会社では、毎年休み明けに前年の反省点と今年の抱負をレポートにして提出することになっている。
 初めて課題を出されたときは、正直驚いた。今どきこんなことをやる会社があるのかと。
 その時の俺の顔を見て、主任が「前時代的だと思ったろ?みんなそう思ってるさ」と苦笑したのを覚えている。

 このレポート、社長が全員分に目を通すらしい。
 それで昇給するとか、評価が上がるわけでもない。それが余計にやっかいだった。
 意味があるのかないのか分からない「抱負」を、どう書けばいいのか。初年度は提出直前まで白紙に近い状態で、結局「努力します」だの「成長します」だの、どこかで見たような言葉を並べただけだった。

 提出期限の前日、俺は主任のデスクに行って、何を書けばいいかわからなかったとこぼした。

「初年度だから、何書いても許されるよ」と主任は笑った。
「正直に、仕事を覚えます、でもいいんだ」

 そして付け加えた。
「でも来年からはそれは許されない。
 普段から業務上での弱点を書き出しておいて、年末にまとめておくといい」

 その助言のおかげで、二年目のレポートはなんとか形になった。提出後、主任がまた声をかけてくれた。

「来年は元旦の新聞を何紙か読むのがいい。
 仕事に役立つような話題が載るから」

 そして今年、三度目の正月を迎えた俺は、アドバイス通りにコンビニで三紙を購入し、読み比べている。

 最初は、直接役立つ話題を探していた。
 だが読み進めるうちに、一見関係なさそうな記事の中に、これは業務につながるのでは、という箇所があることに気づいた。

 ある新聞の経済面に載っていた地方企業の取り組み。
 別の新聞の社会面にあった、世代間コミュニケーションについての特集。
 さらに別の紙の文化欄に掲載されていた、デジタル時代の情報整理術。

 それらを書き出していくうちに、自分の考え方が広がっていくのを感じた。点と点が線になり、線が面になっていく。
 必ずしも新聞に載っている情報が正解ではないだろう。でも、手がかりになる。その中から取捨選択することで、確実に力が付く。

 ふと、主任の言葉を思い出す。

「これ、俺ひとりで考えたことじゃないぞ。
 先輩達からの申し送りだ」

 そう言って笑っていたな。この会社の、前時代的に見えるレポート制度。
 もしかしたら、こうやって知恵を受け継いでいくための仕組みなのかもしれない。

 今年の春、新入社員が配属される。俺も入社四年目で指導する立場になるだろう。
 まだ教えられるほど立派じゃない。それでも、受け取ってきたものを、次に渡す番が回ってくる年だ。

 レポートの抱負の項目を見直す。
 業務スキルの向上、顧客対応力の強化、チームワークの意識。そして最後の項目に、俺は新しい一行を加えた。

「後輩の育成」

 きっと新人も、初めてこのレポート課題を出されたとき、俺と同じように戸惑うだろう。
 その時、主任が俺にしてくれたように、少しでも道しるべを示せたらいい。

 窓の外では、冬の陽が傾き始めていた。

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あるんですよ、こーいう会社……私も早よ書かないと(

個人的な抱負は、今年も1日1編お話を書けるようにしたいです。

1/3/2026, 9:08:59 AM