サラマンダー・サラダ

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突然の君の訪問

「アポ無しで来るとは何事か!?」
角田は酷く激昂した様子で怒鳴った。
「いやいや、そう怒らんで下さい。今日は良い話を持ってきたんですから」
平川はなだめるように言ったが、角田は相変わらず睨み付けながら言った。
「ふん!お前はいつもそう言うが、ろくでもないことばかりではないか!地域の卓球大会に出ないかとか、年少棋士と将棋を指さないかとか。儂は忙しいだ!そんな遊び付き合ってはおられんのだ!」
「まぁまぁ、今日は違いますって。いやね、近所の小学校から、聡明な角田先生のお話を是非子供達に聞かせてほしいと要望が来ましてね。ほら、もう五年前に出版したものですけど、先生の代表先"無頼ベー独楽侍助六"が子供達にもまだ大人気でしてね。是非お願いしたいと」
「ふ、ふぅん」
角田は表情を和らげて、一瞬気を良くした様子だったが、すぐさま「うっ」と何かまずそうな声を出して、誤魔化すように再び声を荒げた。
「いや!そんな急な話は知らんぞ!儂は忙しいのだ!それで、その講演会とやらはいつやるつもりだったのだ?」
「来週の金曜日にでもと」
「ら、来週の金曜日だと!?むむむ!」
角田は腕を組んで悩ましい表情をしたが、平川をギロリと見てから答えた。
「仕方ない!お前がそうまで言うのなら出てやる!まったく仕方のない奴だ!」
「いやはや、恐れ入ります。では何卒よろしくお願いします」
平川がペコリと頭を下げると、角田は「ふん!」と鼻をならして戸を勢いよく閉めた。
平川がしばらく耳を立ててるとドタドタと急ぎ足で廊下を走っていく音が聞こえた。
「よしよし、早速机に戻ったとみえる。この様子なら来週金曜日の締切には原稿を上げてくれそうだな。あの人は煮詰まってる時ほど機嫌が悪いからな。そんな時に進捗いかがですか、なんて訊いたらへそを曲げて仕事をほっぽりだされてしまう。前もって、これから伺います、何て言ったら逃げ出してしまうし。でもあんな偏屈爺さんでも子供好きだから、こんな話を持ってくると意地でも仕事を終わらせてくれるからな。今回もうまくいきそうだ」
平川はそう独り言を、誰にも聞こえないように言ってから、携帯電話を取り出し、つてのある小学校の校長へ電話を掛けるのだった。

8/28/2023, 4:34:08 PM