2月7日のお題「だれもしらない秘密」2025/04/18㈮小説
また突然、妹が部屋に来た。
妹は今日も何も話さない、黙ったまま。
「貴女とは縁を切ったはずだと何回、言えばわかるのよ!今日も見窄らしい格好をしているわね。髪も白く、伸び切って同じ由比ヶ浜家の人間として恥ずかしいわ。だから言ったじゃない。あんな男と一緒になってはいけないって!」
そもそも、あの男は最初は姉の私に声を掛けて来たのよ。
よく晴れた秋の日だったわ。
『こちらは由比ヶ浜さんのお宅でしょうか?明日から庭師として働く……』日に焼けた髪と真白な歯。そして笑窪が出た笑顔。
つい見惚れしまった。
それから、何回も庭の話しをした。
ふわふわと気持ちが浮き立つ時間だった。
でも、あっという間にその時間は終わってしまった。
次の年の肌寒い春の夜には家の前で貴女の手をあの男が握っていた……。
もう過去の事よね。
そう、誰も知らない過去の話し……。
「この話しは止めましょう。」
やはり妹は一言も話さない。
「それにしても、見る限り貴女は幸せそうじゃないわね?何、その恨めしそうな顔は!まるで好きな男と一緒になれなくてとても後悔している女の顔のようで可笑しいわね。私の方が幸せね。好きな男を選んだ貴女より私の方が絶対幸せ。今も女中たちに囲まれて何不自由なく暮らしているんだから。」
部屋の外から、女中の私を呼ぶ声が聞こえた。
「女中が来るのよ。私、忙しいの。早く出て行ってちょうだい。」
部屋に入って来た女中が
「あ、また扉が、、閉めますね。来週は理容師さんが来てくれるので髪を切れますよ。随分伸びてますもんね。」と言い、すぐに出て行ってた。
妹が居ない。
妹は女中が入ると同時に出て行ったのね。
部屋の外で話し声が聞こえるわ。
きっと女中同士が話しをしているのね。
私が1人でも、おしゃべりに夢中だと話しているのが聞こえた。
よく言うわ、あなた達の方が目を離すと仕事の手を休ませて話しているじゃない。
あら、女中が戻って来たわ。
「由比ヶ浜さーん。クローゼットの扉を何度も閉めても開いてしまいますよね?壊れていると思うんです。鏡が付いている方の扉のことですよ。明日、ケア会議があるので施設長に修理が出来ないか聞いてみますね。」と言って来たけど、何を言っているのか、よくわからない。
それから妹は2度と部屋に来なくなった。
終
あとがき
作中には誰もしらない秘密が2つ。
去年の秋に「小説を一度書いてみたい」と書いたことを実現してみました。
読んでくれてありがとう。
4/18/2025, 12:38:54 PM