深夜も深夜。街の灯りもまちまちで、周りの静けさで自分の呼吸がよく聞こえるそんな夜。それはまるで夢みたいな暗さで、ぽつぽつと続く街頭と、誰のためか分からない赤から青に変わる光が眩しい。「嗚呼、なんかいいなこれ。」って思わず声が転がった。まるで世界にひとりだ。
横断歩道から逸れて、車道のど真ん中に立って大きく息を吐く。じんわりとした暑さの中にある、どこか澄んだ風が心地いい。夜が明けてしまうのは惜しい。ずっとこのままひとりだと錯覚していたい。
朝は怖い。僕の心を引いて勝手に歩き出す、あの無邪気なまでの陽が恐ろしい。毎朝鳴くご苦労な鳥たちが煩わしい。朝になれば僕は、僕はひとりになれない。その事実が僕を脅す凶器だ。
明日もまたあの横断歩道を渡る。きちんと身なりを整えて、重たい鞄を持ち上げて、少し汚れた靴で行く。
そして僕は夜を待つ、息のしやすいあの夜を。
9/5/2025, 12:56:42 PM