靴紐
大学1年の時、学費や遊びのための小遣い稼ぎに楽器屋でアルバイトを始めた。
特に音楽が好きなわけでも楽器に詳しいわけでもなかったが、以前通りすがりにお店を見た時に一目惚れしたある店員さんが頭から離れなかった。
その店員さんは細身で色白で綺麗な女性だった。肌の白さに反して艶のある真っ黒な黒髪がとても印象的だった。
よく見ると耳や唇の辺りに複数ピアスが空いていて、より"エモさ"を際立たせた。
今日は初出勤。憧れのあの店員さんに会える期待を胸に扉を開く。
ちょうど目の前に開店準備をする彼女の姿が目に入る。店長から軽く紹介があり互いに挨拶を交わすが、緊張でそれ以外話すことはできなかった。
仕事に取り掛かろうとしたその時、不意に彼女が私の足元に膝まづいた。
「!?」
あまりのできごとに声も出せないでいると、
「…あ、急にごめん。靴紐、解けてたから。店狭いから転んだりしたら大変だよ。」
素早く私の靴紐を直すと膝まづいたまま上目遣いでそう言った。
「あ、あぁぁぁありがとう、ございます。」
アルバイト先で私は白馬の王子様(?)と出会ってしまった。
9/17/2025, 10:57:13 AM