もち

Open App

#ブランコ
 
 
 
 ロボットが一体、目を覚ましました。
 彼は、執事ロボットです。
 人間のお世話をするのが仕事です。彼のご主人さまは、このお屋敷に住んでいる、ちいさな女の子
です。

 女の子の部屋へ向かうとちゅう、ロボットは温室に寄りました。
 ピンク色の花を摘みました。女の子の好きな色です。この温室も、ロボットが世話をしています。以前は庭師ロボットがいたのですが、いつのまにか、姿を見なくなりました。でも、彼は執事ロボットです。お屋敷の仕事なら、ひと通りインストールされています。専門職のロボットほど上手くはできませんが、土いじりは好きです。丁寧に世話をしてやれば、花壇の花はきちんと応えて、咲いてくれます。

 女の子の部屋につくと、ロボットは厚いカーテン
をあけました。
 大きな窓から朝の光が差しこんで、部屋の中央のベッドを照らします。ベッドは空っぽです。
 執事ロボットは、ベッドサイドの花瓶に咲いている昨日の花を、摘んできた花と取り替えました。
ベッドをととのえて、掃除をして、それから、庭へ向かいました。

 お屋敷の庭は、女の子のお気に入りの遊び場
です。
 彼のご主人さまは、体が弱くて、お屋敷の外に出られません。そんな彼女のために、お屋敷の庭には世界中のめずらしい草花が、一年中とりどりに咲い
ています。
 庭の中央にどっしり立っている巨大なオークの古木が、女の子のお気に入りです。オークの太い枝からは、ブランコがひとつ、さがっています。女の子にねだられて、執事ロボットがつくったのです。女の子を座らせて、ロボットが背中を押してあげるのです。空を飛んでいるみたいだと、女の子は嬉しそうに笑います。彼女の笑顔が、ロボットは好きです。

 ブランコのそばまでやって来ました。
 ブランコは、空っぽです。
 チェーンがかすかに揺れていますが、女の子の姿は見当たりません。
 チェーンは錆びついてボロボロです。片方が
だらんと垂れ下がって、傾いています。座板はすっ
かり朽ちています。
 ブランコの足元の芝生に、なにか、落ちているの
を見つけました。
 ちいさな、金色の輪っかです。
 女の子が左腕にはめていた腕輪と、データが一致しました。腕輪の裏に、日付が刻まれています。
女の子の生まれた日です。ちょうど三日後の日付
ですが、今から200年前をさしています。200年が
人間にとっては長すぎることを、ロボットは知って
います。
 けれど、彼は執事ロボットです。
 人間のお世話をするのが、仕事です。ご主人が
いなくなった後の行動もプログラムされていたはずですが、壊れた彼を修理してくれる人間は、この
お屋敷には、もういません。

 風で、ブランコが揺れています。

 金色の腕輪をブランコの足元にもどして、ロボットは屋内へもどっていきます。ちいさなご主人さまのために、朝の紅茶を用意しにいくのです。
 
 
 
 
 
 
 
 

2/2/2024, 5:29:14 AM