ビルから出て太陽の眩しさに目が眩む。
こうして太陽の下に出たのは何日ぶりだろうか?
最近仕事が忙しく、日の出ている内に出退勤が出来なかった……
しかし今日ようやく、本当にようやく仕事に一区切りがつき、太陽が沈む前に帰ることが出来た
長かった……
この一か月、早出遅帰りは当たり前。
一週間前からは会社に泊まり込む始末。
昨日など、寝る間も惜しんで会議だった。
十分に休めない日々が続き、皆涙ながらに仕事を続けていた……
けれど、それも終わり。
今日の会議で画期的な打開策が出されたからだ。
俺たちの頭を悩ましていた問題を、一気に解決する素晴らしきアイディア。
そのアイディアを聞いて、皆が涙していた。
もちろん俺も泣いた。
これで家に帰れるからだ。
こんなに素晴らしい事は無い。
俺は感激に身を任せながら、太陽の光を全身に浴びる
俺は太陽が嫌いだった。
なんだか陽気になることを強要されているようで、陰キャである自分とは反りが合わないと思っていた。
だがどうだろう?
このすべてを包み込む抱擁を!
俺は太陽の事を勘違いしていたようだ。
太陽が、こんなにも優しい存在だったなんて知らなかった。
また泣きそうになる。
だが泣くのは後
泣くのは、家に帰って布団に包まれてから
太陽の優しさに泣きそうになりながら、家路につくのであった。
◇
次の日の朝。
小鳥たちの歌声と共に、目を覚ました。
そして木がざわめく音を感じながら、体を起こす。
なんて気持ちのいい朝だろうか?
今までの人生で一番開放的な朝だ。
隣には俺にぴったりと体をくっつけて鹿たちが寝ていた。
なんとものどかな風景であった。
鹿?
というか外じゃん。
なんでこんなところに寝ていたのだろう?
昨日の記憶を探ってみるが、家にたどり着いた記憶がない。
どうやら力尽きて、ここで寝てしまったようだ。
11月だというのに寒い思いをしなかったのは、鹿が横で寝てくれていたからだろう。
鹿の意図は分からないが、感謝の気持ちでいっぱいだ。
俺が起きたことに気づいたのか、鹿たちが体を起こし始めた。
鹿たちは、生きている事を確認するように俺を見る。
「ありがとな、おかげで死なずに済んだ」
俺の言葉を理解したのかしていないのか、鹿たちは急に俺に興味が失せたかのように離れ始める。
と思いきや、鹿たちは一か所に集まり、そこで俺をじっと見つめていた
鹿せんべいの無人販売所であった。
「あー、お礼に食わせろって事か」
そうして俺は、持ち合わせの小銭で買えるだけのせんべいを買い、鹿たちにくれてやる。
「しかし、いい天気だなあ……」
すでに高く登っている太陽の下で、俺は無断欠勤の言い訳を考えるのであった。
11/26/2024, 1:46:58 PM