『君と』
君ともっと早く出会えていたら――そう思わずにはいられなかった。
戦いの最中に敵に懸想するなど馬鹿げた話だが、事実彼に目を奪われたのだから仕方がない。美しいエメラルドのような髪に少女のような顔立ちをしながら、その瞳は強い決意と意志を窺わせ、かといって師の仇である私に憎しみを抱いているわけではない、澄んだ清流と言えるほどの純真さであった。
彼は、かつて私が殺した男の弟子だったという。もし、あの男を殺す前にその事を知っていたら、私はあの男を殺すのを止めただろうか。そうすれば今のように敵として相対することもなかったのだろうか。
取り留めもなくあり得ない仮定の話を思い浮かべるが、軽く首を振った。詮無い話だ。歴史にもしはあり得ない。起こった事だけが事実だ。私は彼の師を殺した。だから彼は私の前に立った。当然の話だ。
私はあの男を殺したことは間違っていないと確信しているし、殺したことを悔いてもいなかった――君と出会うまでは。
あの男を殺したことで君と戦うことになったのを惜しく思う。もし、私が殺したあの男に済まなかったと一言詫びれば、君はきっと私を許し、戦いを避けることができるだろう。それはとても魅力的に思えた。
だが、それはできない。私は十二宮最後の宮を守る黄金聖闘士。私にもなすべきことがある。私的な感情で使命を放棄するわけにはいかないのだ。
未練を振り払うようにマントを翻す。
さぁ、君の力を見せてみろ。君の力も、思いも、私がすべて打ち砕いてみせよう。
4/4/2025, 12:04:23 AM