「なに、そんな暗い顔しないでよ」
「…うん」
「電車ある?間に合う?」
「うん…」
「分かった。暗いから夜道気を付けてね」
手を。
いや、無謀な願いだ。
けど、お願いします。
手を、繋ぎたい。
最後に、勘だけどきっと、最後になりそうだから。
「…ね」
「ん?」
「手…」
「て?」
「手、最後に……、繋ぎたくて」
彼は一瞬目を丸くした後、憐れむような目をして微笑んだ。まるで、子供嫌いだが、仕方なく子供に笑顔を振り撒いた時のような。
いやいや、仕方なく、だけの、彼の笑顔。
「今日は遅いから、また」
「…あ、うん」
「じゃ、もう行くね。お互い元気に頑張ろうね」
分かったも、頑張ろうね、も言えず、私も彼のように仕方なく笑った。
容赦なく去りゆく彼の背中に、思わず手を伸ばしてしまいそうになる。足が駆け寄りそうになる。重たい私になりそうになる。震える手をきゅっと握りしめて、彼の言った言葉を思い出す。
あの、「また」は、本心なのだろうか。
重たくならないように、「今までありがとう。また会おうね」とだけメッセージを送った。けれど、あれから何も返事はなかった。追いLINEを送ろうとしたけど、静かにそれを消した。
「また会いたいよ」
私以外誰もいない、ただただ広い部屋は埃っぽかった。
「また」
/また会いましょう
11/13/2024, 3:31:34 PM