Ichii

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太陽

申し上げます。申し上げます。
僕は心の底からお慕いしておりました、あの人のことを。
あの人はとても素晴らしい御方だ。誰にでも平等で、公正で、無欲な、美徳の持ち主なのだ。教室の片隅で寝たフリをして時間をやり過ごす僕のことを見つけてくれた、神様のような人なのだ。あの人は他の凡庸な奴らとは違う。自分が気持ちよくなりたいだけの偽善者達の自己満足の優しさではなく、心から僕と共にあってくれたのだ。あの日、僕と目を合わせ、僕の話を笑わずに真剣に聞いて、笑みを返してくれた時から、僕はこの人に心からの親しみと、信頼を置こうと決めたのだ。
あなたも、きっと同じ気持ちでいると信じていたのです。だって、あなたが僕に向ける顔は有象無象に向けるものとは違っていたから。僕にだけだよ、と言っていた全ては嘘だったのですか。僕は、あなたが隠したいことは墓にだって持っていく覚悟だったのに。そんな簡単に打ち明けられるものなのですか。それとも、僕はあなたの隠し事の金庫ではなく、ごみ箱でしかなかったのですか。あなたの共犯者足り得なかったのですか。
僕は信じていたのに、それなのに、あぁ、思い出すのも反吐が出る。
僕とあなたは対等なようで、どうしようもない壁が立ちはだかっていた事は自覚していました。
僕にはあなたしかいないけれど、あなたは他にも沢山の人間に囲まれていたから。僕にとって唯一の友人で、心の寄辺であったあなたの事を盲信していました。そして、沢山の有象無象のなかから僕だけを見てくれるのが、僕があなたにとってどれだけ特別な存在であるかを感じ、優越感に浸る日々であったか、あなたはきっと存じ上げないことでしょう。
あなたの隣にいたあいつは誰ですか。なぜそんなに顔を赤らめているのですか。どうして、周囲の無能共はそんな二人に柔らかな視線を向けるだけなのですか。
こんなの、あんまりだ。あなたの隣は僕ではなかったのですか。なぜ僕ではないのですか。なぜ、僕には何も話してくれないのですか。僕は、何も知らない。
あなたが許せない。酷い人です、僕はあなたの事を心から尊敬し、慕っていたというのに。裏切りだなんて、あんまりな仕打ちだ。周囲もそうだ、僕があの人と共にあることなんて当たり前のことだったのに、あの盗人を見過ごしているなんて。
神様、神様。あの日から僕の神様の形はあの人そのものでしたが今だけは恥を忍んで他の神様を拝みます。
どうか、正しい姿に。僕の慕っていたあの人を返してください。太陽のようなあの人に恋焦がれたのです。誰のものでもなく、けれど僕を優しく照らしてくれたあの人に。あの人は今、ひとに、凡人に成り下がろうとしている。そんなの、許せるわけが無いのです。どうか、どうか。

僕は、斜陽を迎えたくない。

8/6/2023, 8:53:19 PM