美佐野

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(信号)(二次創作)

「うわっ、モノホン!?」
 仕事帰りのチリは、信号待ちで人混みに紛れるひときわ見慣れた人影を見つけた。先端にモンスターボール型タッセルが付いた氷色のマフラーで隠れた口元に、すっと伸びた立ち姿。間違えるはずがない。
「グルーシャやんか!」
 声を上げるなり、チリは待ちきれずに駆け寄ってしまった。ちょうど青信号が点滅し始めたタイミングで、無謀にも見えるタイミングに群衆が振り返る中、本人はというと少し眉をひそめてこちらを見ていた。
「……危ないから信号は守って」
「ええねん、ギリオッケーやったし」
「見てる方はヒヤヒヤするんだよ」
 むっとした顔でそう言いながらも、グルーシャは歩道の端に寄ってチリを迎える。パルデア四天王と最強のジムリーダーの組み合わせに、先程とは異なる色の視線が刺さるが、その程度でチリの勢いは鈍らない。
「てか、なんでこんなとこに?誰かと待ち合わせ?あ、まさかデート?チリちゃんというものがありながら!」
「ただの買い物」
「ほんなら一緒に寄ってこ。アイスとか食べてこ?」
「……夕飯前に冷たいもの?」
「氷のジムリーダーが何寝ぼけたこと言うとるん」
 人混みの中でも声が大きいチリに、周囲の視線が集まる。グルーシャは観念したように肩を竦め、チリの手を取る。
「取り敢えず行こうか」
「アイス食べる気になった?」
「ここにずっといたらメディアにあることないことすっぱ抜かれるでしょ」
「なんなら先手打ってツーショット写真でも撮っとこうか?」
 チリはワルそうな顔をしながらグルーシャに手を引かれている。背の高い彼女はどうしても耳目を集めるが、慣れているため歯牙にも掛けない。普段は人のあまり来ないナッペ山で過ごすグルーシャから見ればやや迷惑なのだが、なんだかんだ楽しそうなチリに釣られたのか、その口角は少し上がっていた。

9/6/2025, 11:31:19 AM