みんないつも違う顔をしている。今まで沢山の人に会ったけれど、同じ顔の人なんていないし、同じ人の中に同じ表情を探すこともできない。優しい目をしたあの人もまばたきの間は悪魔になった。悪魔になれる。それはきっと悪いことじゃない。心の流動性なんてよく言われる。だけども少し寂しくなる。だってみんないつも違う顔をしている。もう二度とあの人の優しい表情には出会えないのか。大嫌いなあいつの大嫌いな顔を憎めないのか。寂しくなるのは少しだけだ。
昔から変わらないものが好きだった。太陽をみていた。太陽は変わらなかった。しょうもないおっさんの信念みたいに下品を煌々と巻き散らかすばかりだ。それだけで少しは心が落ち着いた。今日は朝から天気が良かった。天気の良いことの何が良いのかは分からない。太陽はやはり太陽のようだった。それはそれは下品だった。だけどずっとみていた。それでも段々変な胸騒ぎが始まって、部屋から手鏡と新聞紙を持ってきた。太陽の下品を一つに集めた。小学生ぶりだったな。新聞紙が燃えていく様はたしかに美しかった。太陽なんかよりずっと良く見えた。全部が灰になって火が虚空に逃げるとすごく悲しくなった。虚しいというよりは悲しいの方が適切だった。手鏡で自分の顔を見てみた。限りない笑みがそこにはあった。いつも違う顔をしていた。一番しょうもないのは自分だった。手鏡を置いて太陽を直視した。下品さだけが伝わってきた。
2/22/2023, 2:29:04 PM