『特別な夜』
村の言い伝え通り、百年に一度の赤い月の昇る夜が来た。
この日、村人は一人残らず広場に集まり、一晩中踊り明かさなければならない。
「絶対に、足を止めちゃダメよ」
今はもういない親友の言葉を胸に、私は無心でステップを踏み続ける。
周囲では村人たちが、恍惚とした表情で激しく舞っていた。
奇妙なのは、誰一人として足音を立てていないことだ。
数十人が踊っているというのに、広場は静まり返っている。
ふと、隣で踊っていた誰かがよろけて動きを止めた。
その瞬間、赤黒い靄が辺りを覆い、目を開けるとそこには誰もいなかった。
驚いて周囲を見渡すと、それまで踊り続けていた者たちが一斉にこちらを向き、音のない拍手を始めた。
無事に、乗り越えられた。
これであと百年は大丈夫だと。
1/22/2026, 7:09:38 AM