小鳥遊 桜

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【冬休み】

目の前には、小さな子どもが1人。
神社の階段にランドセルを置いて、座っていた。
多分、小学生の高学年。
泣くこともなく、笑うこともなく、ただただ無表情な顔をしていた。

心配になって、声をかけてみることにした。
子どもは、少し驚いた顔をしたがすぐ無表情になった。
「なんですか?」
話題を決めてなかった私は、慌てて
『そういえば、もうすぐ冬休みだね。』
と変な人扱いされてもおかしくない会話をした。

少し経った後、子どもは、ぽつりと
「私ね。離婚してる父親の所に弟たちと行くの。」
子どもたちだけで、父親の所に行くのか…?と思いながら
『そうなんだね。君は、お父さん好き?』
「わかんない。」
ちょっとだけ、思ったことを聞いてみることにする。
『お母さんと弟さんたちと君とで行くのかな?』
「お母さんは、行かないよ。お母さんは、私たちが嫌いだから…自分が遊びたいから、冬休み中、私たちを遠い所に住んでいるお父さんの所に行かせるの。」

私は、驚いた。
こんなに小さい子どもが、こんな感情をずっと抱えて生きていることに。
何か、この子に、私が出来ることは無いかと思っていた時。

「だからね。」
子どもは、続けて言った。
「私、お父さんにお母さんの事、相談してみる。何してくれるのかわかんないし、大人は皆面倒くさがりなの…知ってるけど。」
『そう、なんだね。』
やっぱり、この子はすごい子だなって思った。
先のこと、周りの環境、大人の事…全てわかってる感じがした。

「お姉さん、聞いてくれてありがとう。最初は、防犯ブザー鳴らそうと思ったけど、私の悩みを最後まで聞いてくれてありがとう。私、ちゃんとお父さんに相談してみる。」
そう言って、初めて笑ってくれた。


その後、その子と別れた。
小さな背中にランドセルを背負って、ゆっくりと歩いて帰る姿を見えなくなるまで見送った。

あれから約20年。
冬休み前のランドセル姿の子どもたちを見つけると、このことを思い出す。
あの子は今どこで何をしていて、父親の所に行ったあとどうなったのか…色んな事を思いながら、今日もあの子が幸せに生活できている事を願っています。

12/28/2022, 11:11:52 AM