『もしも未来が見えるなら』
もしも話が大好きだった。
小さい頃から、50歳になった今も好きで、よく友人たちともしも話をする。
昔は友人たちとの連絡もなかなかだったが、今は便利な世の中というもので、スマートフォンのアプリでほぼ毎日のように友人たちと会話するのだ。
声を交わさずとも、高校時代の頃のような、あの楽しかった日々を会話するだけで思い出せる。
そんな日々にただ浸りつっける。
良かったことも、悪かったことも、言い合って、何気ない会話を交えながら、今度会おうと約束を交わそうとする。
「なぁ、よしき、来週にでも会いに行ってもいいかい?」
「おまえさん、本当に高校の時から変わらないんだから。」
そういえば、高校の仲良いグループを作ったのは俺だったし、みんなの進路がバラバラになっても会う約束を作るのは俺だった。なんなら、仕事が始まってからの毎年の忘年会も俺が誘って、みんなが仕方ないなあと集まってくれていた。
そんなことにも懐かしみを感じた。
なぜだろうか、なぜみんな集まってくれるのか、俺はふと疑問に思えた。
これがもし夢だとしたら?
もしかして、これは俺の幻で、本当はもうみんなも縁が切れていたりして?
いけないいけない、俺の大好きなもしも話が始まっとしまった。
「なおみとみさき、たくやも呼ぼう。人は多ければ多いほど楽しいんだから。」
「なおみちゃんは最近忙しいみたいだぞ?それにみさきちゃんも関東から出たと言っていたじゃないか、たくやはまぁ、呼んだら来てくれるだろうがわしとおまえさんだけだったらあいつは楽しめないだろう。なんてったって、あいつは生粋の女好きなんだからな!」
はっはっはと笑い飛ばすよしきになんだか不信感を覚えるが、そのまま話を続けた。
「なおみとみさきは来れないのかあ。じゃあ、またみんなでグループで話そうじゃないか。声が聞こえなくとも、昔のようなやりとりをしたらまた楽しめるかもしれないじゃないか。」
「はぁ。」
よしきは大きなため息をつき、小さく息を吸った。
そして、ボソリというのだ。
「現実を見た方がいいんじゃないか?」と。
「現実ってなんだよ、俺はいつだって現実主義さ。」
「もし未来が見えたら、いいのにな。」
「なにがたよ、よしき。」
5分が経ち、10分が経つ。だか何もこない。
なぜだろうか、なんだか鳥肌がたった。
どんどんどん!!!
と強く扉が叩かれた。
田舎ならではの鍵開けっぱなし文化で、俺はこの瞬間、死ぬことが決まったのだ。
「おまえさん、昔話は覚えてるか?」
よしきは出刃包丁を握っていた。
ここから俺の命のタイムリミットが1秒、また1秒と縮まっていったのだ。
「そんなの、しすぎてどのことかわからない」
「あーそうか、お前はそう奴だったもんな?」
よしきは俺の腹をいきなり刺し、にっこりと笑った。
「お前たちはいつも俺をネタで人殺しって言ってたよな?いじられキャラだから?俺のことを人殺しって言ってたんだよな?」
恨みを超えたような表情でよしきはまた俺の喉元を刺してきた。
「最初はな?殺しやすい女から殺したんだよ。なおみちゃんも、みさきちゃんも、妙に変が遅いと思わなかったか?なんなら、同じタイミングで携帯電話を変えたと言ってたなあとか、思わなかったのか?」
痛みで頭の痛みで思考が停止するが、確実にわかったことが一つある。
殺人鬼に仕立て上げたのは俺たちだったんだ。と。
「おい、答えろよ、最後に脳天をブッ刺してやるからさあ。あの頃に俺に振りかざした言葉、全部言ってみろよ、目つきが悪いから将来殺人鬼だな。とか、豚や牛を捌く仕事がお前にはちょうどいいんじゃん?とか、、」
「うっ、、」
血溜まりができるほどに時が経つ。
ああ、俺の青春って、よしきをいじめることだったのか、、。よしきの青春を、殺人鬼に育てる時間に使っていたのか、、。
苦しい。苦しい。声も出ない。
もし未来が見えるのなら、、と後悔したが、遅かった。
「よ、しき。。。」
「もしも未来が見えたならな。」
4/20/2024, 11:16:17 AM