「みいちゃん! みいちゃん!」
ああもう、うるさいわね。
そんなにたくさん叫ばなくたって、ちゃんと聞こえてるわよ。だって私、あんたよりずうっと耳がいいんだから。
いつの日か、ちっぽけなねぐらで泣いていた私を抱き上げてくれた小さな手を思い出した。
まあ、小さいって言っても当時の私の体を包んじゃえるくらいではあったけどね。
でも、その小さな手は柔らかくって暖かくて、それでふんわりいい匂いがしたのを、ずっと覚えている。あと、小さいわりに力が強かったのも。
「みいちゃん私がお姉さんで、みいちゃんは妹だからね!」
私はあっという間にあんたより大人になったってのに、そんなことも言ってたかしらね。でも、あんたの妹ってのも存外悪くは無かったわよ。
寒い季節が来る度に、あんたは私を決まって暖かい場所に連れ込んだ。知ってるわよ、おふとんって言うんでしょ? あんたに抱きつかれてて、身動きは取りづらかったけど、でも暖かくて心地よくて。伝わってるかどうか分からないけど、私、あんたのおかげで寒いのが怖くなくなったのよ。誇りなさいね。
「みいちゃん、みいちゃん!」
ほんとに騒がしい子ね。
仕方ないからそのびしょびしょの顔、舐めてあげる。妹に世話を焼かせる姉なんて、あんまりいないんじゃないかしら。知らないけど。
「みいちゃん……ありがとう……」
そんなの、こっちの台詞よ。
「大好き……」
私もよ。
「みいちゃん、いかないで……」
そんなこと言われても困るわよ。
でもほんと、仕方ないんだから。
仕方ないから、すぐ戻ってきてあげる。
ねえ、だから待ってなさいよ。
あんたは姉で、私は妹なんだから。
こんな姉を見ててあげられる妹は私くらいだもの。
だから、あんたはまた私を見つけてね。
『あなたとわたし』
11/7/2024, 3:49:43 PM