シオン

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 終わりが近づいているような予感がしてた。そんな予感はいらなかったけれども。
 でも気の所為だと思いたくて、だから変わらぬ日を続けていたある時、彼女は僕に向かって言ったのだ。
「管轄が変わるから会うのは最後」
 淡々と、まるで良くあることのように彼女は言った。顔も特に笑ってもなければ泣いてもいない、真顔で彼女は言った。
「…………本当に?」
 そんなことを返した僕に彼女は微笑んで、僕の手を握りしめて。
「…………きみの演奏好きだからさ、管轄場所変わっても弾いてね」
 そんなことだけ言って離れていってしまった。
 信じちゃいなかった。彼女は冗談とか言う人だったから。
 でも、いつものように演奏をするためにピアノの前に座った時、たまたま通りかかったような顔をしていたのは、彼女と同じ服を着た違う人だった。
 そいつはまるで怒ったかのように僕の方へ来て言った。
「ピアノ弾こうとしてるが無駄だぞ。今、迷い子はいない。いたところでお前が元の世界に返す前にこのオレが住人にしてやるからな」
「…………きみの、名前は?」
「あ? 名前なんかかんけーねーだろ。呼びたきゃ『権力者』って呼べ」
 彼女と全く違う顔で、声で、性格で、彼女と『同じ名前』を吐いた相手を見て、本当に彼女が居なくなってしまったことを実感したのだった。

6/26/2024, 12:57:48 PM