失恋の続き
好き嫌い
初めは、何だか嫌いだった。
自分に怯えて、びくついているのに何だか
ムカついて 腹が立って 怖がって居るなら本当に怖がらせてやろう位の気持ちだった。
髪の毛を引っ張ったり 頬を意味も無く
抓ったり 虫を頭にわざと乗せたり
怖い話しを目の前で話したりとにかく
怖がらせる為に何でもやった。
最初は、無抵抗でされるがままで痛がる
素振りは、見せても何も反応せず
無言で距離を取られるだけだった。
でもその内 キッと涙目で睨み上げられ
「....ハイネ....嫌い....」と言われた時は
何故だかとても愉快な気持ちになって
笑いがこみ上げて来てしまった。
嫌われた言葉を言われたのに笑いが
こみ上げるとか妙な感覚だが....
当時は、その意味も理由も分からず
ただ ただ あんなに俺の事を怖がってる
のに名前は、覚えててくれてたんだとか
初めて名前を呼ばれたとか
俺のした事に初めて反応してくれたとか
無意識だったけどそう言う事が俺は
嬉しかったんだと思う。
そう俺は、多分 初めて会った時から
あいつの事が好きだったんだと今なら
分かる。
『ハイネ 君そろそろ』『シズクに告白しなさい』
『で、あんたその肝心の好きな子には
いつ告白するのよ』
『もたもたしてると他の人にとられちゃうよ』
そうしてさっきからミーナとナイトに
言われた言葉がぐるぐると頭の中を
駆け巡る。
他の女子に告白された時は、はっきり言葉が言えるのに....
何でシズクの前に出るといつも言葉が
詰まって 思っている事と全く違う事を
口走ってしまうんだろう....
そうして、俺は、頭を抱え何度目かの
ため息を吐く。
(何やってんだろう.....俺)
告白 告白が出来ればこの苦しい気持ちに
終わりが来るのだろうか....
いや告白が出来たとして万が一振られて
しまったら.... 思えば好かれる様な事を
一つもやって無い気がする。
いつも泣かせてばっかだったし....
シズクは、俺を傷つけたと思って気に病む
だろう.....
あいつを困らせてギクシャクしてシズクと
話せ無くなってしまったら....
それこそ地獄だ.....
だったら今のままの方が良い....
じゃあ逆に万が一の奇跡が起きて告白が
成功したら.... 俺は、嬉しすぎて
そのまま熱を出して確実に寝込むだろう
もう心臓が保たない.....
寝込んでしまってもシズクを心配させる
だろうし.... 何よりミーナとナイトが
『情け無い』『ヘタレ』と文句を言う顔が浮かぶ。
どっちに転んでも俺にとっては、
大惨事を招く事が目に見えている。
けどこのまま想いを伝えずに居て
シズクが他の奴を選ぶ事だってあり得る。
その時 俺は、シズクの幸せを願ってシズクを諦めて また別の奴を好きになるのか.....
わからねぇよ そんなの.....だって
こんな気持ち初めてだし....シズク以外の
女を好きになった事ねぇし.....
そもそも俺は、何でシズクがこんなに
好きなんだろう....
好きになってしまったんだろう
シズクの気が引けるなら 嫌いって言葉を
ずっと言われ続けられても良い
怒られても泣いて叩かれても良い
甘えられても わがままを言われても良い
もっとくっいて来たって良いし
自分の事に俺を利用したって良い
もっと俺を求めてくれるなら
頼ってくれるなら 最期に嫌われて捨てられても構わない
なのに実際のあいつは、いつも皆の事
ばっかで 自分を勘定に入れて無くて.....
そう言う所が無性に腹が立って嫌いで....
そして無性に可愛くて 愛しいんだ....
(ああ駄目だシズクが他の奴の者になるとか耐えられ無い....俺ってこんなに心が
狭かったんだな....)
俺は、気分を変える為にバインダー局に
向かった。
仕事でもして気分を切り替えようそれだけ
だった。
そりゃあ少しは、シズクに会えるかもしれないなんて....心の内で無意識に期待してた
かもしれないが....
「あっ.....ハイネ!」俺は、その声を聞き
びくんと肩を震わせる。
シズクが小さな体でキャリーバッグのタイヤを鳴らし俺の方に近づいて来る。
しかも格好がいつもの格好では無くフリルの付いた青い長袖のワンピースを着ていた。
「良かった....ハイネに会えて....
ミーナとナイトには...挨拶出来て....
ハイネにも....挨拶したかったから....」
「挨拶?」俺は、シズクの言葉に首を
傾げる。
「私....寮....辞めるの....これからは、
ルークさん....叔父さんと一緒に....
住む事に.....なって....」
俺がシズクの言葉に目を丸くすると....
「シズクちゃん荷物纏め終わった!」
その言葉に俺が顔を上げると
青い瞳でこちらの視線を捉える様な
溌剌としたイケメン顔の男が立っていた。
そしてそいつは、俺を見つめると.....
「彼は?」そいつがシズクに向かって聞く
「ハイネ.... バインダーの....仲間だよ....」シズクが少し目線を下げながら
答える。
「そう.... バインダーの....じゃあ行こうか
シズクちゃん」そいつはにっこりとシズクに笑みを浮かべシズクを促す。
「はい....」シズクがキャリーバッグを引きながらそいつの元に向かおうとする。
俺は、思わずシズクの腕を引っ張り
シズクを立ち止まらせる。
「ハイネ?」シズクはきょとんとして
首を傾げる。
「シズク....俺....お前に大事な話があるんだ...」 「話? 何....」シズクが真っ直ぐ
俺を見つめる。
「.....俺....」その瞬間俺の決意を遮る様に
「シズクちゃん」と優しい声が聞こえる。
「あっ....はい....ハイネ....ごめんね....
お話し....また....今度....来た時で....
良いかなあ....」シズクは、申し訳なさそうにハイネを見上げる。
「.....ああ....」俺は、視線を一瞬シズクから逸らして答える。
「じゃあ....また....」そう言ってシズクは
俺に笑顔を浮かべて手を振ってその場を
去ったのだった。
そして後に、俺は後悔する事になる。
シズクの笑顔から一瞬視線を逸らしてしまった事も....
シズクの腕を離してしまった事も....
全部 全部 後悔する事になるのだった。
6/13/2024, 5:23:36 AM