あの夏を忘れない。
初任給を握りしめて帰った。
そうはいっても高校生の短期バイト。
今思えば、たった42,000円。
本当は家族で何かしたかった。
「久々にみんなでメシでも」
そういえたらよかった。
でもいえなかった。
ぎこちない言葉を紡ぐより
確かなものを残したくて
中古で買ったカメラに
現像代も考えずに金をつぎ込んだ。
だからNikon F4で撮り溜めた
どうしようもない俺の日常は
すぐに色を失った。
最後の半袖になる頃
お袋は家を出て行った。
大人たちの事情なんて
知り得ない。
【理解はしたけど納得はできない】
小6の弟は
俺よりも言語化がうまい。
俺は親父の代わりに
親父は弟の代わりになった。
正気のまま狂っていく
乳臭い大人をみて
弟は「お母さんはどこ」なんて
もちろん言わなかった。
失ったものへの執着は
こんなにも鮮やかなのに
あの夏の、母さんの笑顔は
カビ臭いカメラの中に
閉じ込められたまま。
【半袖】
5/28/2024, 11:04:59 PM