シシー

Open App

「ごめんね、お待たせ」

 あれこれ悩んでいたら約束の時間になっていて慌てて玄関へ向かった。すでに準備を終えて待っている彼の姿がみえて、さらに足を速める。
玄関の時計は約束の時間ちょうどをさしていた。遅れたわけではないけど、時間に余裕をもって行動する彼をきっと待たせてしまっただろう。一応謝罪はするが彼は待っていないとゆっくりでいいと言うのだ。わかりやすい優しい嘘に甘えてしまうのはよくない、でも嬉しい。

「どうかしたの」

 すっかり秋らしくなったのに合わせて装いも変えた。自分の骨格には布地がしっかりしたものが似合うから秋冬の服装は選びやすい。上着の有無で悩むけどこの季節は好きだ。タイトなスカートにブラウスと薄手のカーディガンというよくあるシンプルな組み合わせなのだが、何か気になるのか彼は少し考えるような仕草をして黙ってしまった。
 息をするように褒め言葉を吐くのに今回は何もない。それどころか目も合わない。照れるとか嫌悪しているような感じはないのになんでだろう。
頭1つ分背の高い彼の顔を覗き込むと、口元を隠し咳払いをしてまた顔をそらされる。全く隠しきれていない笑いをこらえる姿にイラッとした。

「なんで笑うの」

 あまり聞きたくはないけど変なところがあるならはっきり言ってほしい。責めるような口調で問い詰める。
彼は大きく息を吐くとまだ少しニヤけながら腰に手を回した。そのまま引き寄せられて抱きしめられるのかと思ったら、私の下腹を撫でてまた笑い出した。
その意味に気づいたらもう恥ずかしいのと怒りで彼に腹パンして自室に戻った。なんて腹立たしいやつなんだ、誰のせいだと思ってるんだ。
 いつも通りにいくわけないのに、わざわざ指摘してくるのがムカつく。どうせ太ったとしか思ってないんだ。
このことは絶対忘れない。診察結果をみて大いに反省してもらおう。



            【題:始まりはいつも】

10/20/2024, 2:13:15 PM