『――そうして、僕は暗い闇の中に意識を手放した』
画面が暗くなり、ENDの文字が浮かび上がる。
「っあー! またバッドエンドだよ! もう3回目! どの選択肢間違えたんだ⁉」
頭を抱えてワタルが喚いていた。
彼は趣味のビジュアルノベルゲームをしていたのだが、現在、数あるマルチエンディングの中のバッドエンドにしかたどり着けていないのだ。
「何選べばいいんだよー、マカロンちゃんよー。選択肢は合ってるはずなんだけどなー。あと何が足りないんだ?」
ゲーム内での少女のあだなを呼び、決定ボタンで次の画面へ進む。
すると画面の暗転後に、見覚えのない画面とメッセージウインドウが出てきた。
『「箱の中の私」が解除されました。』
「ん? なんだこれ?」
解除、の文字に何かを思いつつ、ワタルは幾週目かの『つづきから』を選んで、最初の選択肢からゲームを再開した。
「お? おぉ?」
一度読んだテキストはスキップが出来るため、先程エンディングを迎える直前くらいまでのシーンにすぐに辿り着いた。そこで、既に読んだと思っていたテキストのスキップがピタッと止まる。
『「……あなた、私の何を知っているの?」真紀子がこちらを睨むように見て言う。』
「おぉ! マカロンちゃん! 知らないとこだ!」
知らないテキストと音声にテンションの上がったワタルは、初めて通過するルートに歓喜の声を上げた。
「これ、今どこなんだろ? 分岐したのか?」
オプションボタンを押して、『分岐図』を開く。このゲームには、自分がどのルートを通ってきたかがわかるように大雑把なシナリオのマップがある。
それを見ると、今まで直線だったものが家系図のようにひょっこりと新しい線が増えていた。
「おぉー! 新しいルート発見!」
ワタルは嬉々として続きをプレイした。
数日後にワタルが共有のネット友達に聞いたところによると、マカロンのルートはいくつかあるバッドエンドを回収してからでないと、グッドエンドのルートが開かないのだそうだ。
何度もマカロンとのエンディングを重ねて、ようやくあの分岐図が更新されると聞いた時、正直面倒だとワタルは思った。
しかし、
「メンヘラのマカロンちゃんだからこそのルートっぽいよなぁ」
しみじみと彼女のことを思い、グッドエンドを噛みしめるワタルだった。
/6/17『記憶の地図』
6/17/2025, 8:53:35 AM