朝日の温もり
「あー、朝焼けだよー」
私は、自分の腫れぼったい目を、携帯の動画通話の小窓に確認しながら呟いた。
「そうかー、こっちはまだかなあ」
ミツルは寝てないのに寝癖でボサボサの頭をふぁさふぁさ撫でている。
今日のトークテーマは、推しのライブに行くまでの心構え、及び、下準備。
体力作りには何が良いか、アリーナでの大型ライブなので、衣装展示などもあり、
それらの攻略法、さらに対バン、仲の良い
バンドも一緒に出るので、そちらのバンドに
あまり詳しくない私に、お勧めのアルバムは、などなど。
話していたらすっかり朝になってしまった。
「ミツルは今日予定、何」
ミツルは目玉をぐりん、と上方向に回転させ思い出す顔つきに。
「んー、昼まで寝て、バイト。一旦帰って、夜のバイト」
「掛け持ち、乙です。ミツルがこれからの日本を支えるです」
私はぺこりと頭を下げて答える。
「じゃあ、コトハも病院だろ?気をつけて行ってき」
「うん…」
私は、今すぐ死ぬ、なんてほどじゃないけど、持病がある。
「やだなあ、また血ぃ取られるー。看護婦さん上手いと良いけどっ」
わざと、おどけて見せる。ほんとは、嫌だ。採血も、どこまでも続く白い病院の廊下も、待合室で淀んだ水槽の中にいる気分に
なることも、腫れ物を触るように私に接する両親も、自分の将来も、何もかも。
「…がんばれ。応援してる。…愛してるから」
ミツルの、そんな言葉と、
朝日の温もりに包まれて、私は少し、
泣いた。
電話の向こうのミツルに気づかれないように、泣いた。
ライブは、1ヶ月後。
推しにも、ミツルにも会える…。
それまでがんばろう。ぜったいにサイコーのライブにするんだ。
2人の声が重なる。
「おやすみ」。
6/9/2024, 4:26:40 PM