薄墨

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人を慰める時、拭う前に真っ先に涙の理由を聞くやつは、モテない。
モテないっていうか、分かってない。

目頭に溜まった涙の重たさもそのままに、外へ出た。
外はまだ、朝靄で煙っている。
走り出す。
何も分かっていない、何も分かっていないと唱えながら。
涙が目頭から離れて、少し後ろに落ちる。

顔がぐしゃぐしゃになってしまいそうだ。
涙が顔から流れていき、朝露が顔に張り付いていく。

耳で風を切れるくらい、スピードを上げる。
学生時代、現役で部活をしていた時は、いつもこんなスピードで走り込んでいたものだった。

涙の理由。それ自体は、どうだってよかった。
いや、どうでもよくはないけれど、説明するほどでもなかった。
ただ、嫌なことが何度か重なっただけなのだ。
嫌なことが毒のようにじわじわ効いていって、ふと、決壊しただけ。
別に理由があったとか、そんなことじゃないのだ。

鬱病の時、訳も分からず涙がこぼれるあの感じ。
あの状態なだけなのだ。

その状態の同居人にかける言葉が「なんで泣いてるの?」って!
分かってない。なーんも。

それが悔しいのだ。
同居人が期待外れだったことではなくて、そんなデリカシーのない、何にも分かってない奴に涙を見せてしまった私が。

こんなことなら、散歩しながらでも泣けばよかった!
悔し涙が溢れてきて、私は強く足を踏み込む。
スピードを上げる。

涙の理由を聞くなんて、分かっていない。
何にも分かってない。

9/28/2025, 1:48:16 AM