【上手くいかなくたっていい】
真夜中の誕生日会、大人たちの度肝を抜く悪戯に、子どもだけのティーパーティ。いくつもの計画を君と二人で実行してみたけれど、今回のこれは一段とぶっ飛んだものだった。
――狭く古臭い村から、二人で逃げ出す。念入りに計画を立てはしたけれど、本当に実現できるのかと思うと心臓がやけに痛かった。
静寂に包まれた夜を、黄金色の満月が包んでいる。緊張を少しでもほぐそうと大きく息を吸い込めば、湿った葉の匂いが広がった。
「なに? ビビってんの?」
トンッと君の手が軽く僕の背を叩く。揶揄うような口調とは裏腹に、その手の温もりは驚くほどに優しかった。
「気楽にいこうよ。上手くいかなくたっていいんだからさ」
軽やかな口調に、全身が凍りつくような心地がした。急激に体温が下がっていくような感覚。僕は君と二人で生きるために、これだけ真剣に計画を練ったのに。君にとってはそんな程度のどうでも良いものだったのか。一瞬よぎった絶望は、続く君の言葉にあっさりと打ち破られた。
「今回上手くいかなかったら、また計画を練り直そう。で、上手くいくまで二人で続ければ良い。それだけだろ?」
ニッと笑った君の顔を、月影が明るく照らし出す。ああ、僕の親友はやっぱり最高に眩しい。いつだって僕のことを力強く引き上げてくれる。
「うん、そうだね。もしも上手くいかなくたって、僕たちなら大丈夫だ」
握った拳をぶつけ合う。上手くいくまで何度でも、僕たちは手を取り合って、挑戦し続けることができるんだから。先ほどまでよりは随分と軽くなった気持ちで、僕は空を見上げた。
まんまるい月は相も変わらず煌々と、そんな僕たちを見守っていた。
8/9/2023, 9:57:12 PM