yuhi

Open App

平日の遊園地は空いている。
スタッフのほうが多いんじゃないかと思うくらいで、来園した若い夫婦は「そろそろここも潰れちゃうかもね」と声を揃えた。

彼らは誰も乗っていない、「笑っちゃうくらいゆっくり走るジェットコースター」に乗ることにした。

トコトコとそれは進んで、時折小さなコブを乗り越えたりしている。

スリルがないね。とふたりは言い合う。
生活ってそういうものか。
ふたりの胸の内は一致している。

彼女が胸ポケットから離婚届を出す。

今? と彼が驚く。

あまりに遅いからと彼女に言われ、それはこのジェットコースターのことなのか、別れることなのかと彼は悩んだ。とりあえず「ペンもはんこも持ってないよ」と答えたが、用意のいい彼女はペンとはんこも取り出した。

そこでコースターは止まる。

書けということか。と覚悟を決めた彼は、離婚届にサインをした。それを彼女に返したとき、コースターは突然スピードを上げた。

景色がふたりの日々に変わる。
それをふたりは泣きながら見た。

おかえりなさいと出口で言われる。

あれ、離婚届は? と聞かれた彼女は、飛んでいっちゃったみたい。とちいさく笑った。

もう少しだけ、小さなコブを乗り越えていきませんか?

もう少しだけね。

ふたりはトコトコと歩き出した。

11/12/2022, 9:46:52 PM