りおち

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「風を感じて」

母の手紙を読み返していると、ベランダから初夏の風が頬を撫でにやってきた。

「あなたが生まれた日も、こんな風が吹いていたのよ」

病室の窓から見えた青空のことを、母はいつも懐かしそうに語っていた。あの日から三十年、今、私は同じ風を感じている。

手紙の文字はにじみ、震えている。
最後の一行に目を向ける。

「風が吹くたび、あなたを思い出します」

風は優しく吹き続けている。母を運んだ風が、今度は私の涙を乾かしてくれる。

そしていつか、私すら運んで、愛する人のもとへ届けてくれるのだろう。

8/9/2025, 10:42:53 PM