一尾(いっぽ)

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→船に乗る。

言い訳ばかりで何もできない、
そんな僕がようやく自分の船を漕ぎだした。
誰かを乗せる余裕もない小さな船に、たった一人。

いきなり惰弱を克服できるはずもなく、早速の疑心暗鬼。
明日を信じることすら恐ろしく、仕方無しにただ櫓を漕ぐ。
出航を後悔する。
一欠片の夢を船底に見つけて、それを空に掲げてみる。
僕が何者かであったなら、コイツが光って導いてくれたのだろうか?
もう落とさないように胸元に仕舞い込む。
少し心が温かくなる。

夜、船に寝転ぶ。満天の星に体を撃ち抜かれる。
陸にいたときには考えもしなかった衝撃。目から星が瞬いた。
新しい感覚に笑みが浮かぶ。

時折、過ぎゆく船とカンテラでやり取りする。
船は孤独だと思っていたが、陸のほうが焦燥と孤独に苛まれていた。
気がつくと、櫓を漕ぐ腕が少し太くなっていた。

明日も明後日も、僕は船の上。
嵐が来ようとも、僕は船の上。
嵐の後にはどんな発見があるのだろう。
今から楽しみだ。


テーマ; 嵐が来ようとも

7/29/2024, 3:33:26 PM