白々しい。
俺は、広場の前に集まった群衆を眺めて思う。
色がない。誰にも。
こんな状態で、投票で決定を下すなんてイカれてんのか、本気で、そう思う。
広場の真ん中、小高い演説台の横に並ぶ、いわゆるリーダー候補共も、みんな色がないのだろう。
現に今、演説台の上で演説らしき真似をしている奴も、大したことを言っているわけではない。
彼らは穏やかに、淡々と、言葉を述べる。
それを聞く人々も、淡々と、耳に音を入れ、情報を処理している。
皆一様に、ゆるゆると首肯いている。
ここは無色の世界。無色の国。
目に入るものは何もない。光がすり抜けるものばかりのこの世界では、光を拾うという前時代的な視覚機能では、モノはおろか、生き物、ここに住むヒトさえも認識できないのだ。
そう、ヒトも。
彼らはペスフィフル(透過)人。誰も光を反射しない。
そして、彼らはシンクロル(無色)人。
どの住民の思考にも意見にも偏りがなく、個々の個性も皆無に等しい。
皆一様に整列し、誰もが同じことを言い、同じことをし、同じものを目指し、同じ正義を語る。…いや、彼らに“正義”なんて偏った概念はないのかもしれない。
とにかく、思想もモノも生物も、何もかもが、無色透明の世界。
無色透明は、曇りなき純粋な健全世界などではなく、実のところ、偏りも個性もない集まりであり、それは何もないということである。
これが、俺がここに滞在して学んだ唯一のことだ。
…あまりに、濃く、一方的に偏った色に染まった、祖国に耐えかねて、真っ白のまま逃げ出してきた俺には、この世界の、ここの人々は_最初こそ魅力的に映ったものの_中途半端に梯子をずらされたような、奇妙な味気なさを感じさせた。
彼らに関わっていると、彼らの透けた体の向こう側に、中身のない、染まったことすらない、真っ白で白々しい、白紙が透けて見えてくる…そんな気がする。
…苦労も人生経験も何一つ詰まっていない、空っぽの俺も似たようなモンだが。
ふっと自分の手を見て、ギョッとする。
…俺の指先、色が無くなってきてないか?
祖国で叫ばれていた、とあるスローガンを思い出す。
「朱に交われば赤くなる」
…ここに長居するのはヤバいかもしれない。
俺は慌てて、彼らに背を向け、荷物を背負い直した。
4/18/2024, 12:02:36 PM