ベッドの上で並んで話をしていた。少し声を落として、内緒話のようにこそこそと。
すると、
「ふぁあ~~~っ」
大きなあくびをしたあなたが、サイドテーブルに用意していたコーヒーカップを手に取る。その中身はもうほとんど胃の中で、カフェインの効果に期待していたのだけれど。
飲み干した空のカップを置いたあとに伸びをした。ぐっと伸ばされた腕は気分を突き上げるように、シーツの中の足は寝床を整えるように、ぎゅっと閉じた瞼はきっと休息と勘違いしてしまうのでしょうね。
やはり効果は薄く。
即効性ではなかったのかも知れない。
「ゔぁーーー、やばい、ねむたい…」
「いつもならもう寝ていますものね」
「今日起きるの遅かったのになぁ……、もうちょっとだけ、起きてたいのに」
あなたの膝の上にはレジャー関連の雑誌が広げられていて、折り目や書き込みがずいぶんとされている。覗いてみれば、ほとんどのものに丸がされていた。
景色のいい湖畔のサイクリング。美術博物館の企画展示。公共機関の一日乗車券とそれを利用したスケジュールの一例。朝活やランチに行きたいカフェの特集。そこに一言ずつ添えて、どんな朝を過ごしたいかも書かれている。ちょこっと、よく分からない謎の生物が落書きされているところもあった。
「今度の休日ですか?」
「うん。きみにつれてってほしいとこ、いっぱいあるから困る」
「何度でも行けばいいんですよ」
「またあのバー、つれてってあげよっか?」
「朝まで飲んだのなんてあれが初めてでしたよ。ふふ、すっごく眠たかったですけれど」
「帰り大変だった。ぼくも眠くてきみも寝てて」
「でも楽しかったです。今度のあなたの案内に期待しておきますね」
「んふ、わかった」
休日が来るたびに交替でプランを立てて、互いを連れて遊びに行く。そのための下調べ。
あなたが持つ雑誌の四分の一もまだ行けていないけれど、少しずつお気に入りの雑誌が経験で埋まってゆくのを、あなたはとても大切にしている。
もちろん、わたくしも。
「ねぇ、このお店の前、通ったことある? 案外近くだよね?」
「お昼休みにすごい行列だったのを覚えてますよ。トマトと鶏ガラのうどんが人気みたいで」
「うどん屋さんだから閉まっちゃうのはやいんだよねぇ。どんな匂いだった?」
「それも楽しみにしておいてください」
「んふふ、わかった。夏がいいんだっけ?」
「最近は暑いですからちょうどいいかも知れませんね。天気予報も調べましょう」
「たのしみ。……ふあぁ、目、しぱしぱしてきた。あ゛~~~……ごめん、そろそろ限界」
「そうですね」
時間で開閉するようにしてあるカーテンがたっぷりの陽光を部屋にそそいでゆく。
薄暗かった室内が朝の気配に軋む中、あなたはヘッドボードに預けていた背をずるずるとマットの上に移動させていった。
「今日さ、ぼくのために早起き、してくれたでしょ」
「つらい戦いでした」
「んふ。今日一日、がんばってね」
「あなたもお疲れ様です」
もうほとんど開いていないあなたの目がにこりと笑う。睫毛を指の腹でなぞれば、もう目は閉じてしまっていた。
もうすぐ、あなたは眠りにつく。
「おやすみぃ……また明日、話そうねぇ…」
「ええ、おやすみなさい」
わたくしはこの瞬間が、少し憎い。
#また明日
5/23/2024, 5:06:53 AM