「わかってるよっ」
思わず大きな声が出てしまって、慌てた。
ただでさえ静かな場所が一層静まりかえって、いくつもの視線がグサグサと身体中を刺す。いくら通話可とされていてもさすがに非常識すぎる。そういう人を責める視線だ。
未だに通話中の文字が浮かぶ画面を素早く切ってその場から逃げた。なのにいくら進んでも自分が監視されているようなまじまじと眺められているような気がしてたまらない。寒くもないのに震えて鳥肌が立つ。
ようやく自分の車に辿りつき、乗り込む。もちろん後部座席に。お気に入りのストールを頭から被って。無音で人の気配のない空間を確保して。
今度こそようやく、ようやく息を吸える。
堰を切ったように溢れ出した涙は止まらない。でもそれでいい、それであっている。
秘密であったはずなのだ
誰にも知られないはずだった
そういう法や施設ごとのルールだったはずなんだ
それを、それを
「みんな、うそつき、じゃん」
教科書に明記されていても、授業で専門の講師が説明していても、施設に属する上で遵守すべきルールであっても。結局、決まり事は破られるためにあったのだ。
その証拠が今日のこの電話だ。親からの、執拗で粘着質で侮蔑と軽蔑の混ざりあった言葉たち。
病院しか知り得ない情報をばら撒いてそこにガラス片を練り込んで、僕の傷口に塗り込む。どんなに痛くてもつらくても笑っていなければいけない。黙っていなければいけない。余計なことをしないように言わないように、つけ込む隙を消すために。
逃げ出せたと思ったのにだめだった。
わかっていたよ、はじめからわかりきっていた。だってあの人たちがそういう人だってことは誰よりも僕が知っているのだから。
だからといって、人の秘密を簡単に喋るなんて
「ひどいなあ」
【題:誰よりも】
2/16/2024, 12:26:33 PM