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『灯火を囲んで』

​ダイニングの照明は、いつものように煌々と点いていた。
テーブルには完璧にデコレーションされたショートケーキ。
その真ん中には、年齢を表す数字の形の蝋燭が、淡いオレンジの炎を揺らしている。

​私は椅子に座り、その炎を静かに見つめていた。
向かい側には昨日まで友人だと思っていた女。

「ありがとう! お祝いしてもらえるなんてうれしい!」
彼女の顔は喜びに輝いている。
​「お願い事、した?」
素知らぬ顔でそう尋ねると、うん!と弾んだ声が返ってきた。

そう、きっとそんなもの、叶わないでしょうけど。

​私は立ち上がり、キッチンから包丁を持ってくる。柄の部分が黒く、刃先は照明を鋭く反射していて――よく斬れそうだ。

​「じゃあ、切るわね」
ケーキじゃない、別のものを。

11/8/2025, 7:42:41 AM