君と最後に会った日は、雨がザーザーと降っていて、「ああ、こんなに激しい涙雨は初めてだな」なんて、冷静に考えてた。
病室の窓の外、いつもの風景が霞むほどの雨、君はもう目を覚まさない。
最後に会えて良かったよ。
さよならは言えなかったけど、君の旅立ちの日にそばにいられたことが嬉しかった。
あっちの世界は痛みも悲しみもないって聞くから、きっともう、この雨のような涙は流さなくていい。
…いや、この涙雨は僕のものか。
落ち着いているつもりだけど、手の震えが止まらなくて。
痛みも悲しみもある世界で、生き続けていかなくてはならない僕の心模様なのかな。
そうだとしたら、僕は自分が思うより、人間らしい感情を持ち合わせていたんだな。
痛みや悲しみで押し潰されそうだから、窓を開けて雨の音を聞いた。
君との思い出を少しずつ洗い流してゆく。
忘れないけど、忘れたいんだ、今だけは。
僕はまだ、この世界に未練があるから。
君がいたこの世界に。僕がいるこの世界に。
病院を後にして、コンビニで缶コーヒーを買った。
いつものブラックだったけど、いつもより苦かった。
でも、これが生きてるってことなんだろうな。
…なんて、らしくない感慨を心に描く。
びしょ濡れの心と体に今さらビニール傘を買って、土砂降りの雨の中を駅へと向かう。
君と最後に会った日に、僕は少しだけ大人になれた気がした。
6/26/2024, 10:35:10 PM