わをん

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『突然の別れ』

今日会うのがこれで最後になるかもしれない、とはお互いに思っていたことだろう。お互いに後ろ暗い仕事の同業で、助けられたり助けたりもする間柄だった。堅気だった頃を懐かしんで酒混じりに思い出を語り合ったこともある。荒んだ業界に於いて数少ない友と呼べる存在だった。
風の噂にそいつが消えたと耳にした。消えたの意味は様々だ。足抜けをしようとしてどこかへ高飛びしたか、どこかでしくじってやられてしまったか、それともついに嫌気が差して人知れず命を絶ったか。いずれそうなるだろうと分かっていたが、今だったのかと問い詰めてやりたかった。
別れは昨日のことになり、一月前のことになり、過去の物になっていく。胸にずっとわだかまっている言葉をもはや言う機会もないだろうにずっと手放せないでいる。

5/20/2024, 3:40:06 AM