烏兎

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 人は、何もかもがうまくいかなくなると、すべてがどうでもよくなって、頑張る気力もなくなって、心が死んでしまうらしい。
 もういいやと、あてつけのように、逃げるように何日もふて寝をすると、今度は眠りすぎて頭が痛い。
 本当に嫌になる。痛む頭を押さえながらベッドから体を起こすと、枕元にちょこんと置いていた思い出のぬいぐるみが目に入った。
 ああ、あの日は人生で一番楽しかった。夢のような一日の一秒一秒が、小さな花びらの形をしてひらひらと心に落ちる。そのうちのひとひらが、「楽しかったね!」と笑い合う私たちが、ひどく輝いていた。それでいて、ひどく痛烈だった。
 人生とは、どうしていつも極端なのだろう。良いことばかりでなくとも、ほどほどだったらいいのに。
 ……なんて、思えはしない。
 思い出のぬいぐるみを抱きしめる。こみ上げる涙をぬぐって、スマートフォンを手に取った。
 まだ、頑張れる気がした。

お題:ひとひら
テーマ:道理

■修正
 ああ、頭が痛い。
 意識が先か、痛みが先か、自覚した途端に意識が浮上して、痛む頭を押さえながらベッドから体を起こした。
 何日もふて寝をしたせいで、体は重くて節々が痛むし、喉はカラカラで、最悪な気分だった。
「あはっ。すでに人生において最低最悪な状態だと思ってたけど、底打ちしないんだ」
 すべてがどうでもよくなって、頑張る気力もなくなっているのに、体はひどく水を求めていた。無気力よりも不快感が勝ってベッドから離れ、冷蔵庫を開ける。ペットボトルの水を飲み干すと、頭が少しクリアになる。
「……」
 生き返る心地だった。けれと生き返った分だけ、感じなくなっていた痛みを感じる。
「なら、死んだままのほうがいいじゃんね」
 苦しくて、また全てを投げ出したくなって、布団にくるまろうとベットへ向かう。
 ふと、枕元にちょこんと置いていたぬいぐるみが目に入った。
 ああ、あの日は人生で一番楽しかった。その思い出を忘れたくなくで買ったぬいぐるみ。見つめるほどに思い出す夢のような一日の一秒一秒が、小さな花びらの形をしてひらひらと心に落ちる。そのうちのひとひらが、「楽しかったね!」と笑い合う私たちが、ひどく輝いていた。それでいて、ひどく痛烈だった。
「……楽しかったなぁ」
 ぬいぐるみを抱きしめる。
 人生とは、どうしていつも極端なのだろう。いいことばかりでなくともほどほどだったらいいのに。最高なんてない代わりに最低がない方がいい、……なんて、思えはしない。
 こみ上げる涙をぬぐって、スマートフォンを手に取った。
 まだ、頑張れる気がした。

4/13/2025, 1:00:46 PM