翡翠

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私は星を食べる。
私は惑星に住んでいる。
黒く濁った惑星に住んでいる。
そこは何も無くてつまらない。
地面を蹴っても、
石ころも土もないから、自分の足がするりと地面の上を滑るだけ。

つまらない

そう思ってふと上をみた。
きらきらと瞬く何かが見えた。
初めて地面以外のものを見た。

手を伸ばせば届きそうで、
ふっと自分の手を伸ばした。
触ってみたら、それはちょっと熱くて、ちょっと優しくて、とっても冷たかった。
そのまま、その光る何かを握りしめて自分の胸元に引き寄せた。美味しそうだった。
そして一口かじった。
自分の中に、沢山のものが流れ込んできた。
その「もの」は、私が『昨日何したっけ』と考えたときの感覚に似ていた。
きっとこの「もの」は私じゃない何かの『昨日』の集合体だった。

その『昨日』のいくつかに、「ほし」というものが映っていた。わたしを包む黒く濁った闇とよく似た、「うちゅう」という「そら」に浮かぶ、きらきら光るもののことを言うらしい。

私は自分の回りを取り囲んで、どっしりと鎮座する闇を見つめた。私の住む惑星は、黒くて濁っててちょっぴり紫だから、「そら」と地面との境界線が分からなくて、いつもちょっぴりふわふわしてる。

「ほし」と、さっき私が食べたきらきら光るものはよく似てたから、きらきらのことを「ほし」と呼ぶことにした。

「ほし」は美味しかったから、
これからも「ほし」を食べようと思う。
でも、「ほし」をいっぱい食べるようになったら、美味しくない「ほし」もいっぱいできた。

確かに存在してた自分の「たいせつなもの」が、何かに喰われてしまったように消え失せるんだと、「ほし」の中の昨日が言っていた。

美味しくない「ほし」は嫌いだけど、
それ以外にすることがないからひたすら星を食べた。


『人は死ぬと星になる。
星を誰かに食べられてしまうということは、
その人の生きた証が、この世から消え去ってしまうということ。
自分以外のたいせつな星を誰かに食べられてしまった人のことを、「記憶喪失の人」という。』

100個目の「ほし」の昨日の中にあった言葉。
意味はよく分からないけど、この「ほし」は美味しかった。

私は今日も、ほしを追いかける。
そして「ほし」の中にある昨日も、
星を追いかけている。

誰かに、これ以上自分達の記憶を消されないように。


2025年7月21日(月)
「星を追いかけて」

7/21/2025, 12:12:22 PM