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 会社から家に帰る途中、急に雨の匂いがした。
 驚いて顔を上げると、雨粒が顔に当たる。
 大変、雨だ!

 しかし私は傘を持っていない。
 これはいかんと周囲を見回し、雨宿りが出来る場所を探す。

 私が手間取っている間も、雨はどんどん強くなっていく。
 今は雨足も弱く、柔らかい雨と言ったところ。
 遠くの空を見れば暗く、すぐに土砂降りになるだろう。

 けれど雨宿りできるところが見当たらない
 このまま私はビショ濡れになってしまう運命なのだろうか?

 諦めかけたまさにその時、視界の端にコンビニの光が見えた。
 まさに地獄に仏ならぬ、雨中にコンビニ。
 助かった。
 私は車が来てないことを確認しながら、コンビニへと走り出す。
 これで安心だ。

 そしてコンビニにたどり着き、ぜえぜえと息を吐く。
 久しぶりに走ったな。
 私は運動不足の体を恨みながら、筋トレの重要性について考える。

 だがそんなのは後。
 とりあえず中に入り、体を休めよう。
 そう思って顔を上げると、そこには見知った顔があった。

「何してんすか?」
 そう言うのは、私の後輩だ。
 社会人になって初めてできた後輩……
 だが私はコイツの事が嫌いである。

 私の方が年上だって言うのに、敬意というものが感じられず馴れ馴れしくてチャラい。
 なのに他の同僚に対しては、それなりの態度なのが気に入らない。
 誰だよ、初めての後輩はメチャクチャかわいいって言った奴
 私の後輩は可愛くないぞ!

「見て分からない?
 雨が降って来たから、雨宿りに来たのよ」
「えー、ホントすか?
 雨降ってなかったすよ?」
 まるで私が嘘をついているように言う後輩。
 本当にこいつだけは……

「疑うなら自分で見ろやい」
「どれどれ……」
 後輩はめんどくさそうに、私の肩越しから外を見る
 そしてしばらくした後、私に視線を戻す。

「降ってないっすよ」
 不思議そうに首を傾げる後輩……
 え、もしかして止んだ?
 私は訝しみつつも、振り返る
 だが雨足こそ弱いものの、絶賛降雨中であった。

「おい!」
「こんなの降った内に入らないすよ」
「私はデリケートなの。
 アンタみたいにガサツじゃないの!」
「ひどい言い草っすね」
「アンナにだけは言われたくない」
 まったく、コイツの相手をしたら疲れるだけだ。
 話を切り上げよう。

「もういいわ。
 そこをどいてちょうだい。
 私は傘を買わないといけないの」
「傘欲しいんすか?」
「そうだけど……
 何、貸してくれるって言うの?」
「どうぞ」

 後輩が押し付けるように、私に傘を渡す。
 私は一瞬呆ける。
 確かに口には出したものの、本当に貸してくれるとは思わなかったからだ。

「ちょ、あんたの傘は?」
「大丈夫っすよ。
 こんなの降った内に入らないっす」
 そう言って、私が止める間もなく後輩は雨の中を駆けだしていく。
 すぐに雨足が強くなり土砂降りになるが、後輩は戻ってこなかった。

 私はしばし呆然とした後、あることに気づく。
「もしかして気を使われた?」
 何という事であろう。
 後輩が傘の無い私を慮って、濡れることをいとわず傘を貸してくれたのである。
 どうやら私はアイツの事を誤解していたようだ。

「ふーん、意外とかわいいとこあるじゃん」
 なんだかんだ言って、アイツは私の事を心配してくれてたんだな。
 私は後輩の優しさにニヤニヤして――

「あ!
 この傘ボロボロじゃん!」
 あちこち穴が開いた、ゴミのような傘だった。
 だからくれたのか?

 本当に可愛くないやつ!

11/7/2024, 1:45:41 PM