麦わら帽子
夏と言ったらこの帽子、麦わら帽子。
でも僕にとっての麦わら帽子は一つの逃げ道でもあった。
僕の麦わら帽子は少しつばが広くて、下に引っ張れば顔がすっぽり隠れる大きさの帽子だった。
春夏秋冬、泣きたくなった時はよくその麦わら帽子を深く被って部屋の隅で泣いていた。誰かに泣き顔を見られのが嫌な僕の小さな抵抗だった。
だから僕の中での麦わら帽子は夏の帽子というよりは、幼くて泣き虫だった僕を守ってくれた小さな秘密基地でもあった。つばをたくさん引っ張った僕の麦わら帽子は左右が少しくたびれていて、それだけ昔の僕は弱かった。
今は背中を預けれる人が傍にいる、胸を貸して貰って心の叫びを受け止めてくれる人がいる。幼かった頃のように、小さな僕のプライドのために、部屋の隅で声を殺して鼻水を流さなくてもいい。僕の秘密基地は、少し広めのつばの下から、
僕と君の大切な家になった。
少しつばの広い麦わら帽子は今でもお気に入りで、それを被ると君は似合ってると笑ってくれる。今の僕の麦わら帽子は、炎天下から僕を笑顔を守ってくれる立派な秘密基地だったりする。
8/11/2023, 7:52:50 PM