「あ、あのさ…」
「あに(何)」
「私たち、友達だよね?」
「は、なにを今更。そう言ってくれたのは教祖サマだけど?」
なにか?とでも言いたげに訝しげな顔でこちらを見るサヨにわたしは苦笑いでこう返す。
「じゃあさ、こんなに近くなくてもいいと思うんだけどなあ〜…なんて」
「やだ」
「ですよねー…」
そうなのである。わたしは今サヨの膝の上に向かい合うように座らせられていて。もうすぐ唇が当たってしまうのではないかというくらい近かった。普通の友達の距離感というにはおかしすぎるだろう。
わたし、前川モカは頑としてこの距離を譲らないサヨカに気づかれないほど小さく息をつき、どうしてこうなったんだっけなぁー…と髪の毛を弄られながら深く思考を遡っていくのだった。
わたしはごく普通の大学生だった。別に特質するものは無く、ちょっと自分の意思が薄く流されやすいだけの一般的な人。それが流されるままに設立したばかりの宗教団体の運営側に誘われ、流れるままにいつの間にか自分が教祖にすげ代っていただけのただの大学生だ。教祖とは言っても宗教の顔と言うだけで私がなにか動かしている訳ではない。元々私を誘ってきた友人が細かく団体を運営して、副教祖(私を隠れ蓑にしているがほぼこの人が教祖みたいなものだ)が私を動かして信者を扇動している。初めはお遊びみたいなものだった。友達が、カルト宗教作ってみたくね?とかバカみたいなことを言って。私はそれにふざけて、いいね具体的にどんな?と詳しく突き詰めていっただけ。それが今では信者数300人の小規模カルトだ。友人が集客して、副教祖(友達の友達)が台本を作って、私がそれを使って演説をする。そんなバカなお遊びに扇動される人は案外いるもので、いつの間にかその場所では教祖と呼ばれるようになった。わたしは信者達の熱量が行き過ぎているようで少し怖かった。友人達のマインドコントロールが余程上手いのか信者は私を妄信的に教祖と慕い、意見を求め、相談事をしに来て最後はたくさんのプレゼントを置いていく。信者が増えれば増えるほど、副教祖とバカ友人以外の友達は離れていくし、二人もだんだんわたしを教祖として、金の成る木としてしか見なくなった。みんなから慕われて悪い気はしないけど、教祖とはいえ所詮二人の操り人形。私の事を見てくれる人は居なかった。だから、ずっと憂鬱だった。それ以外なかった。そこで一人の女子高生に出会う。それが山田サヨカちゃん。チラシを見てやってきた考えなし。なんでも悩み事を解決してくれる、という謳い文句が書かれた胡散臭いチラシの可哀想な、バカな被害者。それが第一印象だった。
彼女の悩みは些細なものだった。テストの点が悪いこと、弟がウザイ、最近食べ過ぎて太っただとか。バイト先の先輩の愚痴とか、ちょっとお話して満足して帰っていく。なんだか、だんだん妹みたいだなって感じるようになって。ちょっとサヨカちゃんが来るのが楽しみになった。サヨカちゃんは距離の詰め方が上手かった。私を教祖さま、教祖さまって慕ってくれてなんでも悩み事を話してくれるのが可愛かった。正直嬉しかったし、最近はなんだか悪くないなって思うようにもなってた。テスト前になれば勉強を教えたし、家に招いてご飯を食べたり、お休みの日に一緒にお出かけに行ったりもした。きっと自分が思っているよりもずっと可愛がってたし、一緒にいるのが楽しかった。本当の妹みたいだなって。だけどある日信者の恋人を名乗る男が乗り込んできて、私を糾弾して私に鉄パイプで殴りかかってきた。それで、病院で目が覚めてわたしは外に出るのが怖くなった。私を外に連れ出して教祖を続けさせようとする友達二人のことも怖くて、退院してから外に出られなくなった。少したって、サヨカちゃんが家を突き止めて会いに来るようになった。わたしは外に出たらまた殴られたりするんじゃないかと怖くて当分は玄関前で話すだけだったけど、いつの間にか家にいれるようになった。サヨカちゃんが家に来てる時だったかな。二人の友達が私を教祖に戻そうと押しかけてきた。わたしはチャイムがなり続ける部屋の中でただ怯えることしか出来なかったけど、サヨカちゃんが追い払ってくれた。わたしはすごく安心して、ずっと一緒にいてねって言ったんだっけ。サヨカちゃんはそれに今まで見たことないくらいの笑顔でもちろんって頷いてくれた。そのあとすぐだったかな。脅迫文が家に届くようになったの。手紙には写真も入っていて、そこにはわたしと、サヨカちゃんも写ってた。怖いし、サヨカちゃんにも迷惑がかかるだろうしもう嫌になって、何も言わずに引っ越した。そのあとは全部何もなかったみたいに普通の人に戻れた。大学はちゃんと卒業して、普通の、…ちょっとブラックな会社に入社して。普通だった。帰り道、私が教祖だったことを知ってる子。副教祖の子がボロボロに見違えた姿で私を待ち伏せしてたの。わたしが何も言わずに教祖をやめたこと、怒ってるみたい。一から宗教を作り直そう、今度は絶対逃がさないから。そう言って私を連れてこうとした。そしたら警察の人を連れたサヨカちゃんが現れた。警察は副教祖を現行犯で捕まえていった。…薬物やってたんだって。私はサヨカちゃんに無言で手を引かれて、なんで知ってるのか分からないけど迷うことなく私の家まできて、私のカバンから鍵をとって部屋に押し入った。そこで、お話した。突然いなくなって寂しかったこと、心配したこと、私ってそんなに頼りないですか。って泣かれちゃった。脅迫文のことと迷惑になると思ったことを言った。否定されて、少し嬉しかった。わたしはずっと思ってたことを言った。このタイミングしか無かったから。なんでこんなに色々してくれるの?って私たちの関係って何。信者と教祖?
サヨカちゃんはちょっと言葉に詰まって、形式上は。と言った。目を泳がせながら一呼吸置いて、教祖さまのことが、好き、だから…と。顔を真っ赤にしていうものだから。わたしは驚いて、いつから!?と大きな声を上げてしまった。サヨカちゃんはキッと睨んで最初から!!と言った。チラシを見て来たと言ったが、ホントは近所の公園で初対面を果たしていたらしい。彼女は家出少女だった。初対面のわたしと公園で話して、なにか思うところがあったのだろう。説得されて家に帰ったそうだ。親に心配かけてたことを実感して、自分が子供だと思えた。その時の私の事を忘れられなかったそう。チラシを貰って、そこに乗ってる写真に私を見つけた。だから、一目惚れのお姉さんに会いに来たのだ。
サヨカちゃんは、「教祖さま、私教祖さまのこと好きだよ。恋愛として!」
と言った
「…ごめんなさい私。妹として好き。それだけじゃだめ?」
「ほんとにだめ?」
「、うれしいよ?本当に嬉しいんだけど、そんなふうに言われるなんて思ってなかったから自分の気持ちわかんなくて」
「じゃあ、友達からなら?」
「…友達から、なら」
「絶対好きにさせてみせるから。教祖さま」
サヨカちゃんの笑顔は眩しくて、小悪魔的で、なんだかすぐに落とされちゃうような気がした。
10/20/2025, 12:39:56 PM