【旅の途中】
かつて勇者は、魔王討伐の旅を故郷である
この村から始めた。
故にこの村は冒険者の聖地であり、わざわざこの村から冒険を始めようとする者も多い。
村は新進気鋭のルーキー達やそれを狙う商人等で
常に活気があり、今や村というより――街のような発展具合である。
―――さて、そんな街の外れ住む私は、この街が村だった頃の村長である。
この家は軽い丘の上にあり、村の様子がよくわかるのが当初はとても気に入っていたのである。
昔は街のように元気も体力も漲っていたが、
今では村のように、静かに、穏やかに暮らしている。
皮肉なもので、街が盛り上がればそれだけ、私は老い朽ちているような気がするのだ。
村長としては村の繁栄を喜ぶべきなのだが…まったく自分が惨めに思えてきて仕方がない。
そして、この年になってそんなことに悶々としているのも、またみっともないのだと思う。
そんなある日、街の行事に前村長として出席することになった。
最近は身体の勝手がきかなくなっていたこともあり、
まともに街に出向くのは数年ぶりである。
どこを見ても目に映るのは、活気ある若者たちの姿。
まるでひとりひとりが、かつての勇者のように、眩しくそこに存在している。
しかし一方で、街は意外と村の面影が見えた。
丘から見れば建物は高く、夜でも明るく、特に静かな彼の家では騒ぎ声まで届いたものだが、
道や区画は昔のままに、武器屋も、宿屋も、看板だけは変わっていない。
気づいてしまった。
変わっていたのは、「村と私」ではなく、「私」だけだだったのだ。
村は街となっても、旅を支え続けていた。
ただ私が気概を失い、人生の旅から降りただけなのだ。
街は、こんな私の旅も支えてくれるだろうか。
願わくば私も、旅の途中から………
2/1/2025, 9:51:47 AM