一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・雨降って地固まる。

 通り雨だと解っていて、彼女は彼を呼び出した。
「駅前の喫茶店で雨宿りしてるの。早く傘を持ってきて」
 通り雨だと知っていて、彼は彼女に「うん」と答える。
「すぐに行くよ、少し待っていて」

 彼が喫茶店に着く頃、彼女はパフェを注文した。二人はテーブルのパフェを挟んで向かい合う。
「僕の好きなヤツだ。ありがとう」 
 彼がぎこちなく礼を口にし、それを受ける彼女もまた固い顔で、ポツリと謝罪の言葉を口にした。「話の途中で飛び出してってごめんなさい」
「こっちこそごめん。一方的に言いたいことだけ言っちゃって」
「お互い、感情的になりすぎたわね」
「引くに引けないって不毛な空気、バシバシだったよね」
 苦笑した彼はパフェを二人の間に滑らせた。
 どちらともなくスプーンを手に取る。生クリーム、アイスクリーム、フルーツ……。他愛もない会話とともに。
 スプーンがコーンフレークに進む頃、二人の緊張は解れ、寛いだ様子に変わっていた。 
「雨、止んだね」
「通り雨だもの」

 短い雨の後、太陽が顔を覗かせる。濡れた地面に陽光が反射する。キラキラと美しく輝く。
 喫茶店を後にした二人は、普段よりも固く手を繋いで帰路についた。

テーマ; 通り雨

9/27/2024, 8:14:46 PM