女の子は何でできてる? 砂糖にスパイスそれにすてきなものすべて。そういうものでできている。
かの有名なマザーグースの一節。だけど、現実の女の子はそんなに甘くない。煮詰めたカラメルの様に苦い思いも、入れすぎたスパイスの刺激に傷つけられる事も日常茶飯事で、キラキラ綺麗とは程遠い。周りと自身を比べて妬んだり、恨んだり、時には優越感を抱く生き物なのだ。
素敵なものだけで出来ていたなら、こんな醜い感情を持たずに済んだかもしれないのに。そうやってまた、自己嫌悪というスパイスが私を苛む。
そんな醜い感情を悟られたくなくて、服やら化粧やらでコーティングする。私らしさ、なんて分からない。どうでもいい。醜い私を隠すためのコーティングなのだから。ふわふわ甘い香水も、白やビンクのワンピースも、つやつや光るパンプスも、本当は全く好みじゃない。けれど、それでいいの。砂糖とスパイス、素敵なもので作られた、理想の女の子。あなた好みの女の子になれるから。あなたに見つけて貰えるから。
デートも5分遅刻する。だって、彼はその方が喜ぶから。時間に厳しい真面目ちゃんよりも、少し抜けてて守りがいのある、か弱い女の子が好きだから。
約束の時間15分前。少し離れた場所から待ち合わせ場所を確認。腕を組み、周囲を観察しながら彼の到来を今かと待つ。
約束の時間10分前。彼がやって来てそばに置かれたベンチに座る。
約束の時間5分前。そわそわして落ち着かない雰囲気の彼に話しかける女を発見。思わず二の腕に爪を立ててしまうが、女の野暮ったい印象にちょっとした優越感を得る。
約束の時間ちょうど。彼は広場に立った時計を数秒おきにちらちら眺めている。すぐに駆け寄ってしまいたい気持ちをグッと抑え、残りの5分を耐え忍ぶ。
1分1秒がとても遅く感じられる中、ついに時計の針が約束の時間5分後を告げた。最終チェックで髪とワンピースを軽く整え、彼の元へ駆けていく。ちょっと息が上がっているのを演出できれば尚良し。靴音を響かせながらやって来た私を見て、彼は安心したように顔を綻ばせた。
「こら、また5分遅刻」
「ごめんね……明日はデートだーって思うと楽しみで、眠れなかったの」
「遅れるのはいいけど連絡はしないと駄目だよ? 心配で僕も眠れなくなっちゃう」
「うう……ごめんなさい」
落ち込み泣いているフリをする私の背を、彼は疑うことなく撫でる。そんな優しさに少しだけ心がチクリと痛む。
砂糖のように甘くて、スパイスの様に中毒性のある、素敵な素敵なあなた。そんなあなたを騙している事が、時折酷く痛いのだ。心に刺さった棘の痛みを消したくて、私は彼に問いかける。
「……ねえ、私ってかわいい?」
一瞬不思議そうな顔をする彼。我ながらめんどくさい問いかけだ。それでも彼は優しく答える。今日も、こうやって。
「かわいいよ。僕のために靴を鳴らして一生懸命走ってきてくれるところも、ふわふわの髪の毛やワンピースも、君らしくてかわいい」
君らしい、その言葉に安堵する。
あなたは知らなくてもいいの。女の子は甘くないってことも、煮えたぎった醜い感情も。心までコーティングしてみせるから、どうか愛して。砂糖細工の私を。
【何気ないふり】
3/31/2023, 12:54:42 AM