【泡になりたい】
シャボン玉が好きだ。
青色の吹き具を口に当てて、息を吹きかけるだけで、無数の丸い泡が無邪気に空へ流れ出るのだから。
僕はそれに世界が進む気分を乗せた。
今日も、
玄関のピンポン。
君がきた。
今日も、
猛暑、紫外線…としつこいくらいに注意を知らせるテレビをつけっぱにして、書きかけの宿題をテーブルに乱雑にして、緑側で。
「私もあの泡みたいになれるかな?」
「…なれるよ。僕もそうなりたいな。」
空で縦横無尽に駆け巡るシャボン玉の舞に、
肌が焦げる不快感を忘れさせられる。
セミの音。
自然。
そして、未来の僕たちを重ねた。
互いに社会人になってから二人きりでいられる回数はパタリとなくなった。
青色の吹き具は、玄関に置いたまま。
友人を自宅に誘ったとき
玄関になぜ、吹き具を置いているのかよく尋ねられる。
「ノスタルジーというか、わからない。」
まるで何かあるかのように。
しかしそれが一種の御守りになっていた。
君が交通事故で他界したのはあれから2年後のことだった。
ただ、緑側で外を眺めていた。
隣人の庭からか、シャボン玉が流れている。
玄関に置いていた
液の跡が乾いてこびりついて古びている吹き具を、
口につける。
今から僕もなるよ。
【泡になりたい】
8/5/2025, 12:30:54 PM