はた織

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 たかが薄物一枚を引いただけで、内と外の空間が出来るのもなかなかに不思議な話だが、時折どちらが外と内なのか分からなくなる。
 大方、私はカーテンに覆われていると思えば、そこは内だ。とは言え、どちらが安らかな内であろうが、恐ろしげな外であろうがそんなの一切関係無く、白いカーテンの隙間から手は現れる。
 カーテンの境目というべきか、そこを白い指先がするりとすり抜け、青い血管が浮く手の甲を見せつけて、細い手首を軽やかに捻り、五本の指を鳥の翼のように広げて、真っ白なたなごころを露わにする。
 手首より先はカーテンの向こうだ。微かに隙間から暗闇が覗き、ただただ手が影から伸びて浮いているようにしか見えない。なのに、カーテンの向こうには人間がいる、美しい白い手の生き物がいる、とにかく柔らかな暗闇をまとった たましいがいる。
 そう私は信じて、自らの手を伸ばした。するりとカーテンの中にのめり込む。掴んだはずの手は無いが、カーテンの向こうに何かいる気配を指先で感じた。手招きをしてみた。唯一可愛いと言われた小さな爪で反射板よろしく光沢の交信をする。こんにちはと。返事はない。反応はない。生きていない。何も掴めなかった。誰も握ってくれなかった。
                 (250630 カーテン)

6/30/2025, 1:13:28 PM