夏の終わり
残った夏が雨に溶け、暑さが目まで染み込む、そんな日だった。
「……ごめんね、もう、無理」
そう言って微笑んだ彼女は、笑った目尻から、涙か雨か分からない雫を1滴だけ滴らせ、横断歩道の人混みに溶け込んで行った。
離れていく彼女の赤い傘は、見えなくなったあとも霞んだ灰色の景色によく見えるようだった。
しばらく雨に打たれて、ようやく
「あぁ、僕は振られたのだ」
と理解した。
あの時からずっと胸のどこかに隙間がある。
その隙間から幸せがぼろぼろ零れて、胸が満たされることは無い。
鼻に今でも残るのは、彼女がよく使っていた花の香りの香水と、あの雨の日のつんとした匂い
もしもタイムマシンがあったなら───
あの日に戻って、人混みに消えていこうとした君を引き止めたい
さびしかったよね
ごめんね
『もしもタイムマシンがあったなら』
7/22/2024, 10:59:36 AM