お題:天国と地獄
日が入る学食の窓際の席で、今日は天気がいいなぁなんて思いながら外を眺める。
日光があたって暖かいはずなのに、何故か隣でブリザードが吹き荒れているのではないかと思うほど寒い気がするのは気の所為だ。
気の所為だと思いたい。
いや、実際ブリザードなど吹いていないが、そう見紛うほどに雰囲気が悪い。
ちらりとそちらに視線をやると、2学年上の先輩が2人、向かい合って座っている。
数分前、俺の真横に座る先輩の唐揚げ定食の最後の唐揚げを、俺の斜め向かいに座る先輩がかっさらったのだ。
普段であれば苦言を呈するものの、代わりの品を贈呈することで丸く納まるのだが、今日は駄目だった。
何が原因かは知らないが、とてつもなく期限が悪かったのだ。
誰がどう見てもそうだと、分かるのに空気が読めないというか読もうとしない先輩がやらかした。
雰囲気はすこぶる悪いが、ここで口論をしないあたり、育ちの良さが垣間見える。
本人たちには絶対に言わないが。
真向かいに座る同期に視線をやると、肩を竦めていた。
先輩達がほぼ同時に立ち上がった。
空になった食器を返却口に持っていく。
そこで視線があった学食のマダムに微笑みとともに礼を言うのを忘れない。
そして並んで学食を出ていく。
学食から一歩出たと同時に走り出す。
運動会のリレーのド定番であるBGMが脳内再生される。
なので、思わず口ずさんでしまった。
「なんでその曲なんだ」
「いや、なんとなく」
「気持ちは分からんでもないが」
なんて言いながら、2人が走り去った方向を眺める。
「さて、始まりました追いかけっこ。どちらに軍配があがるでしょうか」
「元陸部短距離走選手と万年帰宅部では結果は火を見るよりも明らかでしょう」
「火事場のバカ力、というのもありますが」
「それでも厳しいでしょうね」
なんて、誰に対してなのか分からない実況をしてみる。
「確か、あの人午後から同じ授業受けるはずだから、どうなってるか教えてもらうかな」
「わざわざ聞くのか」
「気になるだろ。勝敗というか、その後の顛末が」
「まぁ、そらそうだけど」
なんてくだらない話をしながら席を立った。
5/28/2023, 2:33:22 AM