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『心の境界線』


「ごめんね。」


彼女は困った風に眉を下げ、じっと彼を見た。
彼女は誰とでもすぐに仲良くなり、打ち解け、心を開いているように見せるのが上手だ。
本音の建前で表情を誤魔化し、彼女はいつの間にか目の前から消える。
私たちの心を無意識に掻き乱し、まるで翻弄しているかのように弄び、そして、ぐちゃぐちゃになった私たちに手を差し伸べ、何も知らない彼女は微笑む。

彼女の優しさは盾と矛だ。

甘くて苦しい蜜のようで、こちらから距離を取れば彼女は何食わぬ顔でそばを離れる。
慌てて彼女を引き止めれば、顔だけ振り返り、彼女は常に前へ進んでいく。
一度、手を離してしまえば、止まることはあったとしても、私の横に来ることはもう二度とない。

でも、彼女は私たちに、「好き」と言う。



11/9/2025, 11:56:47 PM