彼女に嫌われていることは知っていた。
「アンタさぁ」
「邪魔なんだけど」
「クソ野郎」
罵られるのなんて日常茶飯事だった。
理由はわからない。ただ、友人──彼女の好きな男と喋っているだけで睨まれたから、嫉妬なのかもしれない。私は男だが。
「その顔で御役所仕事に戻るつもり?みっともないから拭きなさいよ」
先の戦いで顔に浴びた返り血を、男勝りの彼女は少し乱暴に手拭いで綺麗にしてくれる。
そう、彼女は優しくもあった。
「今日はどうしたんだい?明日槍でも降るのかな?」
「そこは『ありがとう』でしょうが、この礼儀知らずの馬鹿野郎!仲間に感謝しな!」
凄まじい速さで頭を思いっきり叩かれた。
仲間……仲間か。その響きが少しむず痒く、また心が温まるような心地がした。
時は流れ、私の友人と彼女は恋仲になり、結婚した。そして友人は彼女と子供を残し、すぐに亡くなった。
彼女は泣いた。ひどく憔悴し、見ていられない程に痩せた。
“仲間”──昔彼女に貰った言葉がちらつく。
今度は私が言ってあげたら……彼女は心が温まるだろうか?
部屋に彼女を呼び出す。
だがもう、駄目だと悟った。彼女は既にひび割れてしまっていた。
愛する夫を失い冷え切ってしまった両手を束ね……私は作った笑顔で彼女を壊すように抱くしかなかった。
自らも友人を失った心の穴を埋めたかったが、それもどうにもならなかった。ただただ、悲しみが増すだけの行為だった。
「──もう、ここには来ない」
朝方、彼女は掠れた声でそれだけ言うと、部屋を出て行った。
もうあの温かさに触れることはできないのだ。
あんなに大切にしていたものを、ぐちゃぐちゃにしてしまった。その後悔は、死ぬまでずっと忘れることはないだろう。
【仲間】
12/10/2023, 11:08:47 AM