ミツ

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「ママ、かみとえんぴつちょうだい」

そう言うと母親は快く差し出してくれる。

「お手紙でも書くの?」

「なんでわかったの?」

「もうすぐクリスマスだからかな?」

「ぶー、ちがうよ」

「えー?ママ分からないなー、教えてくれる?」

「かみさまにおねがいをするの」

「何をお願いするの?」

「ひみつ」

「そっかー」

「うん」

リビングの椅子に座る。

母親はテレビの前のソファに座っているので見られる心配は無い。

紙を机に置いて鉛筆を握り力強く書き始めた。


かみさまへ

おねがいがあります

パパとママをわかれさせてください

パパはいつもママをたたきます

たまにわたしもたたいてきます

ママはいつもつらそうです

てくびには、いつもきづがついています

ママがロープをもっているところもみました

パパとママにはないしょでとしょかんにしらべにいきました

それで、さいきんわかったのは「じしょうこうい」というものだということです

ロープはわからないけどわたしはママにきづついてほしくないです

パパがいなくなればママはきづつかないとおもいます

パパがいなくなるならわたしはどうなってもかまいません

ママをたすけてください

                                          すずより

書き終わった物を何度も見直して母親に渡しに行った。

「ママ、かきおわった」

「そっかー」

「どうやったらかみさまにとどくかな」

「ママが預かっておくよ」

「とどくの?」

「届くよ」

「なかみはみちゃだめだからね」

「大丈夫、見ないよ」

「やくそくね」

「約束」

その日の夜私は安心して眠った。

これで神様は叶えてくれるはず。


翌朝、目覚めると母親が私に抱きついてきた。

父親はいない。

「どうしたの?」

「ううん、何でもないの」

「なんでないてるの?」

「……ごめんね、ごめんね鈴(すず)」

「なにが?」

「何でもないの、大丈夫、大丈夫だからね」

「てがみとどいた?」

「届いたよ、きっと叶えてくれるから」

さっきより抱きしめる力が強くなった。

「ママ?」

「ごめんね鈴、ママは大丈夫だから」

「ほんと?」

「本当だよ、大丈夫だよ」

「きょうのママへんだね」

「そうかも」

それから私だけ部屋に戻っているように言われた。

その日はずっと部屋にいた。

次の日、知らないスーツ姿の人が立っていて私を捕まえた。

母親に会えずに不安になって待っていると家から母親が出てきた。

私のことを見て母親は言った。

「もう大丈夫だからね、安心してね」

「なにが?」

「ママとパパは離れて暮らす事になったの」

「かみさまのおかげかな?」

「鈴の願い事叶った?」

「うん!…あっ、やっぱいまのなし!」

「どうして?」

「ねがいごとがバレちゃうから」

「そっか」

その時に気づいた。

母親の目元が赤くなっていた。

鼻も赤い。

「ないたの?」

「なんの事?」

「なんでもない」

神様は私の願いを叶えてくれた。

今度は感謝の手紙も送らないといけないな。


                              ー神様へー

4/14/2024, 12:27:22 PM