森川俊也

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イヤホン越しに声が聞こえた。
「あのさ。いつまでそんなことしてんの?」
そんな聞きたくないことを言われてもどうすればいいのかわからない。
だから、聞こえないふりをして音楽をきいていた。
突如、耳から音楽が聞こえなくなった。
黙って上を見上げれば怖い顔をしたお姉ちゃんがいた。
「ちゃんと話くらい聞いたらどうなの?本当にこのままじゃダメだよ。」
「そんなこと言ったって、どうすればいいの?私にはなりたいものもやりたいこともないんだよ。」
今年で大学を卒業するはずの私は未だに夢を見つけられないでいる。
やりたいこともなく、あったとしても自分よりもできる人がいる。
そんな中自分じゃなくてもできることをやる意義を見いだせないのだ。
自分だけがその何かをできるんだったらまだしも…
ひとしきり姉の説教じみた話を聞いたあと、また私はイヤホンをつけて音楽を聞いた。
まともに考えたってどうしようもないと思ったから。
月明かりが窓から差し込む頃。ようやく私はのそのそと動き出した。
風呂に入って半水浴をしてから顔を洗って美容液もろもろを塗る。
ドライヤーで髪を乾かして艶を持たせたら布団に入り込んで寝る。
布団の中はあったかくて柔らかくていつまでも居れそうだ。
ニートになりたいなぁ。
ふとそんな考えが頭をよぎった。
多分親に追い出されるし無理なんだろうけど、やっぱり何もできない私にちょうどいい職業?だと思う。
好きなことはある。
音楽を聴くこと。歌うこと。本を読むこと。
やりたいこともある。
曲を作ること。本を書くこと。売れること。
なりたい夢もある。
作曲家。小説家。声優。
でも私はどれにも不適だ。
作曲なんてほとんど出来ないし、文才もない。しゃべるのが早いから声優にも向いてない。そもそも共感能力すらありはしない。
どんだけやりたいこと。なりたいものがあっても出来ないものは出来ない。
そのために努力を惜しむなと人は言う。
でも、そんなことは無理だ。土力したって上には上がいるし、出来ないものは出来ない。努力でどうにかなる世の中ならこんなに生きづらくはないはずだ。
悶々と考えていると気づけば朝日が差している。
結局今日も寝れやしなかった。
そしてきっと明日も明後日もいつまで経っても寝れやしないのだろう。
だからこそ、いつまでも、いつまでも人々に問い続けたい。
この世界で生きていくにはどうすればいいのかを。

11/21/2024, 10:59:21 AM