俺にとってこの世界は無色だ。
白と黒で構成された無機質な世界。
人々の笑いは耳鳴りに変わり、人々の悲鳴は心地よいサウンドに変わる。
変わり映えのない、つまらない世界。
この世界に色がついた瞬間が一つだけあった。
ダングラールとヴィルフォール、そしてフェルナン。あいつらの顔が歪む所を見たとき、私の視界は色鮮やかに変化した。
あいつらに復讐する。
そう決意した瞬間だった。
殺すことなく、
俺が請け負った全ての苦痛を味わうまで、
絶望と恐怖のどん底に突き落とすまで。
俺が色鮮やかな世界で暮らせる様に。
しかし…
私の目に映った世界は色鮮やかな世界とはかけ離れた世界だった。
じっとりと赤黒く、汚い、目も当てられない世界。
ダングラールとヴィルフォール。
二人の手に握られた刃には、
誰のものだろう
ドス黒い命の液体がべっとりついている。
目の前の弟もまた、
ドス黒い液体に塗れて蠢いている。
弟が手を伸ばしている。
「にいさん…にいさん…」
と蚊の鳴く様な声で呟いている。
何故だ、何故だ。
この復讐で私にも色のついた世界が見られるはずだった。
だが私の目に映ったのは、一色だけだった。
挙げ句の果てには弟の命さえも奪っていってしまった。
私は…俺は一体なにを見ていたんだ?
俺は…何の為に色を追い求めていたんだ?
分からない…分からない…
分からない
……
参考
A・デュマ「モンテ・クリスト伯」
ナゴヤ座「GANKUTSU-O〜復讐の鎮魂歌〜」
より
4/18/2026, 5:02:49 PM